STUDIO 407のアプローチ:二人の巨匠「シャルランとジェクリン」の哲学を現代に蘇らせるレコーディング手法
- STUDIO 407 酒井崇裕

- 5月2日
- 読了時間: 9分
更新日:5月4日
第1章:ピアノ録音における「Authenticity:真実性」の再定義
ハイレベルな演奏活動を続けておられるピアニストの皆様が、一度は直面する深刻なジレンマがあります。それは、演奏中にご自身が体験している濃密な「音の宇宙」と、録音された「記録」との間にある、拭い去れない乖離です。
ピアノという楽器は、88鍵の鍵盤を通じて奏者の指先から伝えられたエネルギーが、複雑なアクション機構を経てハンマーを動かし、鋼鉄の弦を打つことで発音されます。その振動は駒を通じて響板へと伝わり、巨大な筐体全体を共鳴体として、空間そのものを震わせます。奏者が聴いているのは単なる「音」ではありません。この物理的な振動が空間の残響と複雑に絡み合い、ご自身の身体感覚と一体化した「実在」そのものです。
しかし、一般的なレコーディングの多くでは、この豊潤な実在感がマイクというセンサーを通過する過程で、断片的な情報へと解体されてしまいます。プレイバックを聴いた瞬間に抱く「これは自分の音ではない」という違和感は、決して主観的な思い込みではありません。それは、既存の録音技術が人間の知覚メカニズム、特に「空間の中で音がどう存在しているか」という根源的な情報を十分に捉えきれていないという、鋭い直感の表れなのです。
STUDIO 407では、この課題に挑んだ20世紀の二人の巨匠、アンドレ・シャルランとユルク・ジェクリンの哲学を現代の技術で結実させ、ピアニストの芸術性を永劫の記録へと昇華させる「知覚デザイン」を実践しています。

第2章:ステレオフォニック録音の思想的継承
ステレオ録音が普及して以来、エンジニアたちは主に二つの手法を使い分けてきました。一つは、同一地点に二つのマイクを交差させる手法です。これは左右の音の強度差を利用して定位を再現しますが、空間の広がりや空気感が不足しがちです。もう一つは、マイクを一定距離離して配置する手法です。これにより豊かな広がりが得られますが、一方で、中央の音が薄くなる「中抜け」現象や、特定の周波数が打ち消し合って音が濁る現象(コムフィルター)という物理的な制約が常に付きまとっていました。
この課題に対し、フランスのエンジニア、アンドレ・シャルランは「実在感」の追求をもって応えました。彼の開発したデバイスは、人間の頭部を抽象化した筐体に高品質なマイクを組み込み、豊かな残響の中でもピアノの各声部を明瞭に描き出すことに成功しました。
一方、スイス放送協会のユルク・ジェクリンは、知覚心理学に基づいたモデルを提唱しました。彼は特定のサイズのディスクをマイク間に設置することで、低域の到達時間差と高域の強度差を理想的な比率でブレンドし、人間の耳が音を捉えるメカニズムを工学的に再現しようとしたのです。
STUDIO 407の録音システムは、これら巨匠たちの「人間の耳に自然な音を届ける」という思想へのリスペクトに基づいています。そして彼らの仕事を現代的な録音システムの開発へと進化させました。

第3章:STUDIO 407のアプローチ:マイクロ多孔質吸音球体バッフルAB方式
STUDIO 407が開発した「マイクロ多孔質吸音球体バッフル(サイレントボール)AB方式」は、これまでのステレオ録音が抱えていたトレードオフに対する、現代的な回答です。
3.1 物理的なメカニズム
「マイクロ多孔質」とは、表面および内部に無数の微細な孔が存在する構造を指します。音波がこの孔に入り込むと、空気分子との摩擦によって音のエネルギーが熱エネルギーへと効率的に変換されます。この素材を球体状に成形し、マイクの近傍に配置することで、以下の劇的な改善効果が生まれます。

アーティキュレーションの鮮明化
グランドピアノの大屋根内部や壁からの不要な反射を物理的に吸音し緩和します。これにより音がぼやけるのを防ぎ、打鍵の鋭いアタックや、複雑な多声部の独立性を鮮やかに際立たせます。
自然な音像定位とリアリティ
球体バッフルが人間の頭部が行っている自然な音の遮蔽(音の影)を生み出します。これにより、まるでその場でピアノが鳴っているかのような音像のリアリティと存在感が得られます。
「中抜け」のない密度感
豊かな空間の広がりを維持しつつ、バッフルの遮蔽効果によって音像密度を高めます。ピアノという巨大な音源が、聴き手の目の前に実在するような感覚を再現します。
無指向性マイクによる低域のリアリティ
低域の減衰が少ない無指向性マイクの利点を最大限に活かし、コンサートグランドの最低音域までを着色のないフラットな特性で記録します。
恣意的操作なし。完璧な直接音と間接音のバランス
ダブルダイヤフラムの無指向性マイクが完全なバランスを生み出します。ピアノから放射される直接音とホールの残響のバランスは恣意的な操作なく、ありのままの姿で収録されます。

第4章:録音は演奏の「姿見鏡」である
STUDIO 407の録音哲学の根底にあるのは、知覚とは環境との相互作用を通じて世界を生成していく行為(エナクティビズム)であるという考え方です。人間は、頭を動かし、空間の中での自身の位置を感じながら、絶えず変化する音響情報を能動的に探求しています。録音が不自然なアーティファクトを含んだ音として聞こえる最大の原因は、この能動的な知覚プロセスと、マイクによる「静的な収音」が切り離されているからです。
私たちは、レコーディングを単なる「音の記録」ではなく、演奏の「姿見鏡」であると考えています。演奏家がご自身の音を、限りなく透明に写し取られた「実在」として聴くとき、そこには単なるミスのチェックを超えた、深い自己対話が生まれます。「演奏に完成形はない、録音は成長途上のプロセスに過ぎない」という気づきを得て、さらなる高みへと向かわれるピアニストの姿こそが、私たちの技術が目指すゴールです。
第5章:プレミアム・レコーディングを支える確固たる技術基盤
皆様の芸術性を一切の妥協なく封じ込めるため、STUDIO 407では世界最高峰の技術基準を採用しています。
32bit / 352.8kHz (DXD) フォーマット
標準的なCDのサンプリング周波数の8倍、情報量にして16倍という、現代デジタル技術の到達点です。ピアノ特有の急峻な立ち上がり(トランジェント)や、微細な倍音の消え際を、理論上歪みのない状態で完全にキャプチャします。
Merging TechnologiesのインターフェイスとDAWを採用しています。
欧米の最先端マイクを導入
SCHOEPS(ショップス)やEhrlund(アーランド)、Earthworks(アースワークス)といった、欧米のクラシック制作の最前線で選ばれているマイクを使用します。7Hzから87kHzという超広帯域をカバーし、演奏の「息遣い」までを再現します。
厳選されたマイクプリアンプ
微細なマイクからの音声信号を余すところなくクリーンに増幅するマイクプリアンプを厳選しています。消え入るような微細なピアニッシモから轟くようなフォルテッシモまでピアノのダイナミックレンジを余すところなくとらえます。
SPL Crescendo duo、Merging Technologies Hapi、Earthworks 1024、RME Fireface UFX+、SONOSAX SX-M2D2
超低ジッターのクロックが生み出す精緻なデジタルデータ
業界トップクラスの低ジッタークロック Grimm Audio CC2(グリムオーディオ)を採用しています。精緻なデジタルデータがピアノ本来の響きを正確に記録します。
徹底したモニタリング
GENELECとDEQXを用いた高度なモニターキャリブレーションを行い、スピーカーからの着色を一切排除した「原音そのもの」を現場で共有しながら、理想の響きを追求します。


第6章:ピアニストのためのテーラーメイド・ソリューション
私たちのサービスは、単に機材を持って現場に行くことではありません。アーティストが抱く理想のイメージ、楽曲のキャラクター、そしてご予算に応じて、最適な環境をトータルでコーディネートいたします。
6.1 ホール、サロン、ピアノの最適アサイン
提携している音楽サロンやスタジオでは、それぞれ特徴のある名器をご用意しています。
音楽サロンAria(横浜): ハンブルグ・スタインウェイ B211を、コンサートチューナーによる精密な調整で使用いただけます。
Sala MASAKA(横浜): 天井高6mの開放的な空間で、チェコ製ペトロフピアノの温かみのある音色を収録できます。
スタジオ ピオティータ(杉並): 1931年製のヴィンテージ・ニューヨーク・スタインウェイによる、芳醇な倍音を体験いただけます。
ホール・プレミアム: 各地のコンサートホールへ出張し、スタインウェイ D-274等のフルコンサートグランドを使用した圧倒的な響きを記録します。

6.2 安心のサポート体制
長時間のセッションにおいて、エンジニアと一対一になる緊張を和らげるため、必要に応じて女性スタッフが同行する体制を整えています。女性演奏家の方がリラックスして、内面世界を存分に表現できる環境作りを重視しています。
6.3 SNS・動画への戦略的対応
4K多カメラ収録を基準とし、YouTubeアップロード時の音質劣化を最小限に抑える独自のノウハウを持っています。スマートフォンや簡易スピーカーで聴く視聴者に対しても、本格的なクラシックの響きを届けることが可能です。
第7章:レコーディング依頼を検討されている皆様へ
現在、知識としての録音哲学に興味を抱いておられる皆様へお伝えしたいのは、その知識は皆様の「音」となって初めて完成するということです。
私たちが提供しているのは、単なる録音の代行ではありません。皆様が日々向き合っている楽譜の裏側にある情熱、一音一音に注がれる魂、そして空間に消えゆく余韻の最後の一粒子までを、物理的な実体として定着させるための共同作業です。
録音機材という「壁」を感じることなく、ただ自身の音楽だけに集中できる環境。そして、プレイバックを聴いた瞬間に「これが自分の求めていた真実の響きだ」と確信できる体験。それこそが、STUDIO 407が目指す理想のレコーディングです。
ピアニストが得られるベネフィットの総括
課題・悩み | STUDIO 407の解決策 | もたらされる結果 |
録音だと音が痩せる、中抜けする | 独自の球体バッフルを用いたABステレオ収録 | ピアノが目の前にあるような密度感と定位の再現 |
打鍵のニュアンスが消えてしまう | DXD 352.8kHz録音と超広帯域マイクの採用 | 鋭いアタックから消え際の倍音までを忠実に描写 |
ホールの響きが濁ってしまう | マイクロ多孔質素材による不要な反射音の抑制 | 豊かな残響と、音の芯の明瞭度の理想的な両立 |
機械的な音に聞こえる | 人間の知覚メカニズムに基づいた音響設計 | 奏者が体験している「空気の震え」をリスナーへ伝達 |
エンジニアとの認識のズレ | 大手レコード会社出身エンジニアによる音楽的対話 | 自身の音楽的ビジョンを正確に反映した音響制作 |
マイクロ多孔質吸音球体バッフルを用いた収録サンプル
依頼・お問い合わせへのステップ
公式サイトの参照: 各種プラン(ベーシック、プレミアム、コンクール用)の詳細がご確認いただけます。
お問い合わせフォーム: 理想のサウンドイメージや楽曲の相談、日程調整がスムーズに行えます。
体験キャンペーンへの応募: 定期的に開催される本格ホールでのレコーディング体験は、私たちの技術を実感いただく最良の機会です。
演奏家の芸術性は、その瞬間、その空間でしか生まれない奇跡です。その奇跡を、STUDIO 407のレコーディングで、永遠の輝きへと昇華させてみてはいかがでしょうか。




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