浅野 薫さん ピアノ曲「刻」レコーディング ― タカギクラヴィア松濤サロン ―
- STUDIO 407 酒井崇裕

- 2025年12月30日
- 読了時間: 3分
主要配信プラットフォームよりデジタルリリース開始
11月21日、タカギクラヴィア松濤サロンにて、浅野 薫さんのピアノ作品をレコーディングしました。作曲・演奏ともに浅野さんご本人による本作は、現在、TuneCore Japanを通じて Apple Music、Spotify、Amazon Music、YouTube ほか、主要配信プラットフォームよりデジタルリリースされています。

浅野さんから最初にご相談をいただいたのは、夏の終わり頃でした。ご自身の作品をきちんとした形で残したいという思いがある一方で、収録場所やピアノの選択、予算感など、どこから手をつけるべきか悩まれているご様子でした。
作曲者の思いを共有しながら
STUDIO 407では、まず「どのような音楽なのか」を共有することを何より大切にしています。そこで、レコーディングの話を具体的に進める前に、デモ音源を聴かせていただくことにしました。
再生してすぐに感じたのは、これは一般的な意味での「ピアノ曲」として語るべき音楽ではない、ということでした。構造や形式が前に出るのではなく、音そのものが空間に現れては消えていく。その響きの移ろいによって、聴き手の内側に風景が立ち上がってくるような音楽です。どこか絵画的で、時間の感覚さえも曖昧にしてしまうような、不思議な引力がありました。
やり取りを重ねる中で、浅野さんがとりわけ弱音の質感や、ペダル操作によって生まれる微細な音の変化を、とても大切にされていることが伝わってきました。ピアノの中に生まれる小さな響きの連なり、その余韻が遠くへ溶けていく感覚——そうしたものを、できるだけそのままの形で残したい、という明確なイメージをお持ちでした。
また、楽譜には音符だけでなく、詩のような言葉で情景が綴られており、音楽が単なる演奏行為ではなく、一つの「世界」を形づくる営みであることが、はっきりと示されていました。
レコーディング方針の検討
その世界観を踏まえた上で、収録環境と方法を慎重に検討しました。華やかな響きを足すのではなく、ピアノが本来持っている音色と時間の流れを、できるだけ純度の高い状態で捉えること。演奏に余計な意味づけを加えず、音が自然に立ち上がる瞬間を静かに見守るようなレコーディングを目指しました。
当初は、第三者のピアニストによる演奏も検討されていましたが、最終的に浅野さんご自身が弾くことになりました。この音楽は、技術的な完成度以上に、作曲者自身の身体感覚や時間感覚が、そのまま音になっていると感じられたからです。レコーディングの場所は質の高いフルコンサートグランドのスタインウェイが弾けるタカギクラヴィア松濤サロンに決定しました。

レコーディング当日 タカギクラヴィア松濤サロンにて
レコーディング当日は、普段とは異なるピアノに戸惑いながらも、少しずつ楽器との距離が縮まり、スタジオの空気が静かに変化していきました。後半には、無理に「良いテイク」を作ろうとするのではなく、ただ音に身を委ねるような集中が生まれ、聴いているこちらも、いつの間にか深い内省の時間に引き込まれていました。

完成した音源には、派手さや分かりやすさはありません。けれど、静かに耳を澄ませることで、音の奥にある時間や空間、そして作り手の思考の痕跡が、そっと立ち現れてくるように感じます。
ぜひ配信サイトから、この不思議で静謐な音の世界に触れてみてください。




コメント