11月14日に府中の森芸術劇場・ウィーンホールで、ピアノと声楽の収録をしてきました。このプログラムは2015年からスタートし、回を重ねてきました。演奏者の玉木豊先生は、リルケの詩や自然をテーマとした即興演奏をライフワークとしており、高齢にも関わらずいつもお元気に演奏されるので、毎回驚かされます。
豊かな声量で歌いながらピアノを弾く玉木先生の演奏は、サスティンペダルを踏んだ時に、声とピアノが共鳴して、独特な音場をつくります。加えて、その響きはホール全体に広がっていって、雄大で幻想的な雰囲気を醸し出します。ホールで聞いた感じを何とかマイクに収めようと、毎回、試行錯誤しています。
この収録では歌声とピアノが混然一体となった音場をいかにバランスよく収録するかがテーマとなりますが、楽器や声のディテールもしっかり収録したいため、ピアノの配置とマイクポジション、そして、ホールの残響の程度をうまくコントロールすることがポイントになります。
まず、ピアノですが、ピアノが歌声と共鳴しやすいように大屋根を取り外します。ステージでの配置は、通常から約90度回転し、ちょうとピアノがステージと向き合うように配置します。こうすることにより、声とピアノがホール後方に向けて広がり、響きがホール全体を満たしていきます。マイクは、声とピアノのディテールを得るための近接マイクと、吊りマイクを響きのよいポジションに調節します。ホールの3点吊り装置は、長い経路を伝わってマイクレベルの微弱信号が遥々舞台袖までやって来ますが、途中、照明装置や他の吊物機構の近傍を這ってくるものと想像され、どうしても信号がノイジーになってしまいます。そこで吊ったマイクから直接ケーブルをひき、マイクプリアンプに直結してクリアネスを担保します。
ウィーンホールに設置されている残響可変装置は、天井に432本の白い筒状のパイプ状の棒を配しており、その上げ下げで残響時間を調節できます。スタート時はデッドな状態からでしたが、回を進めるごとに響く方向に設定を変えて、今回は12段階中、5(響く方向)に設定しました。ピアノ・ソロの場合、響き過ぎると、音のクリアネスが失われるため、過度に長い残響時間はむしろ悪影響を及ぼします。しかし、この収録は、ピアノと声の同時収録のため、声の雄大な感じや広がりも欲しい。どの程度の残響設定にするのか、また、マイクの距離が音像のリアリティに深く影響してきますので、一番よいバランスを探りながら設定しました。
収録した中から2曲ご紹介します。