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  • 執筆者の写真Takahiro Sakai

プリペアド・ピアノ演奏のレコーディング

更新日:2021年8月21日


12月12日に、プリペアド・ピアノの録音をしてきました。前にこのブログでご紹介した、航さんよりご自分のピアノで録音したいとのご依頼を頂き、ご自宅にお邪魔しての録音でした。

プリペアド・ピアノは作曲家ジョン・ケージが1940年に発明。グランドピアノの弦に、ゴム、金属、木などを挟んだり乗せたりしてピアノの音色を打楽器的な響きに変えたものをいいます。このようにすることで、通常のピアノの音とは違う、金属的な音や独特な音が得られるほか、ダンパーペダルの操作と組み合わせる演奏によって幻想的な響きを得ることが出来ます。

お話を頂いた時から通常のピアノ演奏とは異質な曲になるだろうと予想して、どのようにマイクセッティングをしようか考えて録音に臨んだのですが、サウンド・イメージと空間表現を重視し、繊細な音の質感を可能な限り捉えるように配置しました。絵画の表現でも、現実の世界を写し取ったようなリアリティのある表現がある一方、ダリやエルンストに代表されるシュルレアリスムの現実世界を超越したような表現があるのに似て、今回の録音はその場のリアリティを捉えるという方向ではなく、音の質感から想起される心象風景がうまく描けるような方針で進めました。

演奏はある程度の手順は決めてあるものの、心のおもむくまま即興の一回性を重んじたもので、全て一発録り。演奏手順確認の音出しの際に、録音レベルとサウンド・イメージを速攻で決めていくという瞬間芸のようなものを求められるような作業でした。ささやくような小さい繊細な響きがあったかと思うと突然、頭上から貫かれるような大きな打撃音が登場したりするので、録音レベルの設定にハラハラしました。普通の演奏とは違い、極めてダイナミックレンジ広い演奏で、小さい音の時のSNを良好に保ちながら大きな音で歪まないようにするのは大変でした。

面白かったのは、ヘッドフォンで音を聞きながらマイクポジションを動かし、サウンド・イメージを創っていくことができたので、航さんと一緒に録音演奏(?)しているような感覚になったことです。奏でられるサウンドに触発されながらマイクを動かしていくと、音の表情がガラりと変わったりするので、曲のイメージに合う空間イメージの冒険を楽しめました。とてもスリリングな体験でした。

通常の演奏では気が付かなかった再発見もありました。一つには、ピアノは想像以上に敏感で繊細な音にも鋭敏に反応する楽器なのだということ。また、ピアノの物理的な空間位置によって大きく響きが違い、それが時間軸に伴ってダイナミックに変化しながら複雑な音空間を創り上げていること。微かな音であっても、とても低い音が発生しており、響板がそれに呼応するようにうねり、地を這うような響きを生み出していること。高域の倍音は高い音域エリアのみならずピアノ全体に分布しており、それが時間経過とともに複雑な響きを織りなしていくこと。などです。これらについて実際の音で体感できたのは興味いことでした。通常のピアノ演奏でも、こうした複雑な響きが生み出されていることを考えると、ピアノというのはあらためて凄い楽器だと驚きます。

今回録音したのは5曲。XCREAMで『KAKERA』-Five Sound Fragment-として配信中です。

ピアノサウンドの小宇宙を体験してみてください。

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配信・新作紹介『KAKERA』プリペアド奏法による5つの小品(各¥100)

Five Sound Fragment / Koh plays prepared piano

アジアの砂漠の寺院から聞こえてくるようなサウンドの断片をお楽しみ下さい。

ミュートと丸い木片の偶然と鍵盤の必然。ころころと転がる木の音と音のパターンが可愛らしい明るい曲です。

切り立った岩壁の間の深い谷に響く金属音と風の音。幽玄な響き….

音の木の実をめしあがれ☆かわいらしい爽やかな曲です。

◆from an attic… https://www.xcream.net/item/87787

屋根裏から聞える謎の音......なんだろう?なんでしょう?なぞがなぞを呼ぶ。

piano:Koh Ohtera

Recorded by Takahiro Sakai(STUDIO 407)


Koh_プリペアド・ピアノの録音.jpg
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