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  • 執筆者の写真Takahiro Sakai

モニター環境について

更新日:2021年8月21日


1. リファレンス・スピーカーとは何か?

これまで、音の入り口・マイクロフォンについて書いてきましたが、今回は、音の出口・モニター環境について書きたいと思います。モニター・スピーカーはどれがいい?ドライブするアンプは?といった話題はよく取り上げられることが多いですが、実のところ、音をモニタリングするにあたって確固としたリファレンス(基準)として公式に認識されているスピーカーやアンプは存在していません。メーカーはリファレンスという言葉を謳いますが、これは相対的なもので、販売戦略に基づく言葉の使用の意味合いが強く、一般的なコンシューマー製品と比べて音の再現がより正確であるということを言いたいのだと想像します。強いて言えば、レコーディング・スタジオ等で使用されているモニター・スピーカーは、これを使うことによって信頼性の高い音作りができるから、これがこのスタジオのリファレンス・スピーカーだという意味合いで使われることが多いと思います。スタジオに限らず、オーディオのリスニングルームも同様だと思います。

すなわち、モニター・スピーカーの場合、リファレンス(基準)という言葉は相対的かつ定性的な意味で用いられるということであって、メートル原器のような万人が認めて世界中で使用される絶対的な基準というものは存在しないということになります。従って、各スタジオ、各メーカー、各人のリファレンスは、その数だけ存在することとなり、それ故、○○サウンドとか○○テイスト・サウンドとか、バラエティ豊かな音のキャラクターが生み出されているとも言える。詰まるところ、音楽を再生するにあたって「良い音」というのは、物理的な数値で評価するには限界があり、そもそも「良い音」という評価軸は聞き手が人間である限り、心象ということに深く関わってくるため、物理的な絶対基準を設けることは無理があるということだろうと思います。だからと言って物理特性に意味がないという事ではなく、物理特性はそのスピーカー、アンプの能力を評価する指標として極めて重要であることは論を待ちません。言いたいのは質感という定性的なものを定量的に評価することは限界があるということです。

2. モニター・スピーカーに求められるものとは

さて、前置きが長くなってしまいましたが、モニター・スピーカーに求められる要素としては、おおよそ以下の項目が挙げられると思います。

・周波数特性がフラットで癖がない

・音の解像度が高く、細かい音質変化も再現できる

・鋭い音の立ち上がりも遅れることなく再現できるレスポンスの良さ

・音の定位が正確に認識できる

・キャビネットの剛性が高く、不要な胴鳴りなどが少ない

・長時間の作業でも疲れない

・ユニットやパーツの供給が安定していて、故障への対応ができる

モニターの目的は、録音された、もしくは録音している音声信号が、どのような状態になって音として記録されているのかを正確に把握することです。ですので、上記のような音を正確に把握する要素が求められます。よく、モニター・スピーカーと普通のスピーカーの違いは何かということが言われたりしますが、これは使用目的が違うということであって、優秀なスピーカーであれば、造り自体に大差はありません。違いは観賞用なのか音の状態を確認する目的なのかということになります。モニター・スピーカーを謳っていないものであっても、音の正確性を重視した設計のものであればモニターとして使用可能です。一方、心地よい音として鳴るように音をデフォルメしたり、演出的な音づくりの加工を施しているスピーカーはモニターとしては不向きです。

最近は手頃な価格でも、モニターとして使える優秀なスペックを持った製品も出ていますので、価格やブランドに拘らず、ご自身の耳でいろいろ確認してみるのがよいと思います。聞き慣れた音源で、先に挙げたモニター・スピーカーに求められる要素を、ひとつずつ冷静に確認してみてください。

3. DEQXによる環境構築。デジタル・キャリブレーションという発想

モニター・スピーカーの考え方を述べてきましたが、実際のところ、どこまで正確なモニター環境を得られるかというのは悩ましい問題です。スピーカー特性も完全なものは存在しませんし、モニターする部屋の音響特性によって、音の正確性は大きく左右されます。そうした問題をある程度解決できる製品がありますのでご紹介します。

オーストラリアに拠点を構えるDEQX社は、フェアライト創設者であるKim Ryrieさんが立ち上げた会社で、スタジオ・スピーカーとルームサウンドのコレクション(音響補正)をデジタル技術の応用によって標準化する製品開発からスタートしました。現在は、ハイエンドオーディオ用に、スピーカー補正とルーム音響補正を行う製品の各種を出しています。

http://www.deqx.com/

このDEQX製品では以下が実行可能です。

・デジタル信号処理によってスピーカーの特性(周波数特性、群遅延、インパルス応答等)を補正

・デジタル信号処理によるチャンネルデバイダー機能

・ルームの音響特性補正

平たく言ってしまうと、このデジタルプロセッサーによって、スピーカーの周波数特性をフラットにすることができる上、周波数によってばらつきがある音の遅延も揃え、鋭敏に立ち上がるインパルス応答を得られるというものです。加えて、部屋の音響特性も理想に近い状態に補正できるので、モニター環境構築には最適な製品と言えます。似たような製品では、PAなどで使われる、Behringer deq2496 Auto EQなどがありますが、どちらも、物理的な特性のばらつきを、デジタル領域の信号処理で理想状態にしてしまうという発想に基づいています。

このDEQXを使ったモニター環境構築を具体的に説明します。

① 測定用マイクで、スピーカー特性を測定(左右別々に距離は1m)。データを保存します(図①)。DEQXは測定モードに入ると自動的に測定用の音声信号を出しデータを記録しますので、作業はとても楽に行えます。図は、STUDIO 407のモニター・スピーカーを測定した結果です。3Wayモニターなので、特性カーブが左右合わせて6つ描かれていることが確認できると思います。黒線がウーハー、青線がミッドレンジ、緑線がツイーターです。補正前のスピーカー特性は、このカーブを合成した特性となっています。これを見ると、左右の構造が揃っているのは優秀ですが、15KHzにディップがあり、ツィータの共振周波数を可聴帯域外に設計してあるためか20KHz以降に盛り上がりが確認できます。

② 次に、デジタル・クロスオーバーを設定します(図②)。通常のスピーカーは、内部にあるネットワークによって、高域、中域、低域と音声信号をフィルタリングしていますが、DEQXでは、信号領域でこれを振り分けることができます。クロスオーバー・スロープも可変で、何と最大300db/oct という急峻なスロープまで設定できます。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このデジタル・クロスオーバーを使うことによって、スピーカー内部に配線されているネットワークは不要となり、取り外すことができます。ネットワークはつまり、コイルとコンデンサですから、音声信号がこれを経由しないことのメリットは大きいです。音の鮮度と純度が格段に上がります。

③ 次に、測定したデータをもとに補正処理を実行します(図③)測定データの逆フィルターを施し、合成した特性(赤線)が40KHz近辺まで綺麗にフラットになっていることが確認できます。この図は周波数特性ですが、DEQXは同時に、群遅延(周波数の違いによる音の遅れ)、位相の乱れ、インパルス応答の補正も同時に処理してくれます。

④ スピーカーの補正を完了すると、次に、部屋の音響特性を測定します(図④)補正済みのスピーカーから測定信号を出し、リスニング・ポジションに測定マイクを設置してデータを取ります。大きくピークやディップが出ているところを特定して、デジタルEQで特性を揃えます。この作業も適用範囲をして自動で行うことができます。

以上がDEQXによる、モニター環境構築のプロセスです。これにより、かなりのレベルで高精度なモニター環境を得ることができます。ピアノの録音や、生ギターの録音など鋭く立ち上がるピークを正確に確認する場合、特性的に優れたモニター環境があると作業がしやすいです。

DEQX製品の日本国内の販売は、Kurizz-Laboさんが取り扱っていますので、興味のある方は問い合わせてみてください。ここの店主の栗原さんは、NHKで音楽番組のミキシングエンジニアとして20年間番組制作に携わっていた方です。

http://www.kurizz-labo.com/

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