丸山葉子&村井智恵「ソロ&2台ピアノリサイタル」収録 ~大泉学園ゆめりあホール
- STUDIO 407 酒井崇裕

- 1 日前
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2026年7月24日(金)、西武池袋線の大泉学園駅から歩いてすぐの「大泉学園ゆめりあホール」にてピアニストの丸山葉子(まるやま ようこ)さんと村井智恵(むらい ちえ)さんの「ソロ&2台ピアノリサイタル 〜時代を超えた輝き〜」が開催されました。私が機材を担いで現地に入ったときから、この日の収録が楽しみででした。

ゆめりあホールは、コンパクトながら生楽器の響きが驚くほどナチュラルに、美しく伸びる素晴らしいホールです。当日はなんと満席!客席からステージに向かって押し寄せるようなお客様の熱気とワクワク感を、ヘッドホンを準備している私の手元でもビリビリと感じていました。
今回は、特等席(モニター越しですが)でおふたりの極上の演奏を聴いていた私から、当日の感動的な音楽のドラマと、録音エンジニアとして仕掛けた「音のセッティング」のこだわり裏話をたっぷりお届けします。
1. 演奏者のおふたりのご紹介:息ぴったりの信頼関係
今回ステージで素晴らしい共演を聴かせてくれた丸山葉子さんと村井智恵さんは、武蔵野音楽大学・同大学院時代の同級生です。長年にわたり共に音楽の道を歩み、お互いの個性を誰よりも理解し合っているおふたり。おふたりのアンサンブルには、単なる「技術の息が合う」を超えた、深い信頼から生まれる「あうんの呼吸」があります。
丸山 葉子(Yoko Maruyama)さん
6歳からピアノを始め、武蔵野音大・大学院を卒業された丸山さん。長江杯国際音楽コンクール第1位や、エリーゼのためにピアノコンクール部門賞&カワイ賞受賞など、その実力は折り紙付きです。
これまで銀座・王子ホールやヤマハ銀座サロンなど、計6回におよぶソロリサイタルを成功させてきました。現在は「Souple(スプル=しなやかに、柔軟に、という意味)Piano教室」を主宰し後進を育てる傍ら、演奏家グループをプロデュースするなど、本当にエネルギッシュに活動されています。
村井 智恵(Chie Murai)さん
同じく武蔵野音大・大学院を修了し、在学中には福井直秋記念奨学生にも選ばれた実力派の村井さん。デビューコンサートを皮切りに、オーストリアやイタリアでのマスタークラスを受講するなど、海外でも深く研鑽を積まれてきました。那須高原でのサロンコンサートや、丸山さんと一緒に企画している「0才からのクラシックユニバーサルコンサート」など、地域やあらゆる世代にクラシックの魅力を届ける活動をとても大切にされています。エリーゼのためにピアノコンクールでは準大賞を受賞され、その温かく包み込むような打鍵は、聴く人の心をいつもホッとさせてくれます。

2. ドラマチックな当日のプログラム
コンサートは、それぞれの世界観にどっぷり浸れる「前半のソロステージ」と、おふたりのダイナミックな掛け合いが魅力の「後半の2台ピアノステージ」という、贅沢な構成でした。
前半:それぞれの個性がきらめくソロステージ
ショパンの世界へ(丸山葉子さんソロ)ポーランドの切ない民謡のメロディをベースにした『マズルカ第14番』。哀愁漂う美しい旋律が、ホールの空気の中にしっとりと溶けていきます。続く有名な『ワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」』では、19世紀パリのサロンのような瑞々しいきらめきが広がり、ソロのラストは、ショパン後期の最高傑作『バラード第4番』。深い悲しみの中で生み出されたというこの大曲を、丸山さんは静かな序奏から圧巻のラストまで、まるで物語を語るように、力強くも繊細に描ききってくださいました。
ロシアの神秘とフランスの熱狂(村井智恵さんソロ)続いて村井さんがステージへ。スクリャービンの『24の前奏曲』から、選び抜かれた8曲が奏でられます。「ピアノは魂を持って歌う楽器」というスクリャービンの哲学通り、わずか1〜3分という短い曲の中にギュッと凝縮された苦悩や安らぎといった詩情を、一音一音に想いを込めるように紡いでいかれました。そして前半最後はラヴェルの『ラ・ヴァルス』。霧の中から不気味に立ち上がるワルツのリズムが、優雅さを保ちつつも、最後は熱狂と狂気へ向かって激しく崩壊していくその迫力たるや凄まじく、1台のピアノからこれほど多彩なオーケストラのような音色が出せるのかと、モニター越しに私も鳥肌が立っていました。
後半:2台のピアノが歌い、躍動するステージ
モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448モーツァルトが残した、唯一にして最高の2台ピアノソナタです。お互いが完全に対等な関係で進むこの曲。第1楽章のファンファーレのようなワクワクする始まりから、まるでおしゃべりや追いかけっこをしているかのような楽しげな対話が、おふたりの手によってキラキラと転がるように奏でられました。
ラフマニノフ:2台のピアノのための組曲 第2番よりスランプを乗り越えた時期のラフマニノフの、生命力あふれる名曲です。軽快でお洒落なパッセージが交差する『ワルツ』。そしてラストの『タランテラ』は、毒蜘蛛(タランチュラ)に噛まれた人が、その毒を吹き飛ばすために踊り狂ったという伝説に由来する超絶技巧曲です。2台ピアノから放たれる圧倒的な音の嵐が、ホールの空気をビリビリと震わせ、最高のフィナーレを迎えました。

3. 調律師さんとの共同作業:「サイズ違い」2台のピアノのセッティング
今回のステージ、実は録音エンジニアとしてはかなり燃える、ちょっと特殊なピアノの組み合わせでした。ステージに並んだのは、世界最高峰のフルコンサートグランドピアノ(スタインウェイ D-274)と、セミコンサートグランドピアノ(ヤマハ S3X)という、メーカーもサイズも異なる2台だったのです。
サイズが違うと、何が大変なのか?
大きなフルコン(スタインウェイ)は豊かで重厚、どこまでも伸びる低音が魅力。一方、少し小ぶりなセミコン(ヤマハ)は立ち上がりが良く、引き締まった明るい音が魅力です。これらをそのまま向かい合わせにして弾くと、お互いの「響きのボリューム感」の差で、どちらかの音が埋もれてしまったり、不自然にバラバラに聴こえたりしてしまうのです。
調律師さんのアドバイスで最高のバランスに
当日の午前中に行われたリハーサルでは、おふたりに実際に弾いてもらいながら、私と、そしてホールのピアノを知り尽くした調律師さんで、ピアノを置く位置や角度を数センチ単位で微調整していきました。「フルコン側の大屋根を開けた時の、反響板からの音の跳ね返り方」や「セミコン側のわずかな前後配置のズレ」など、調律師さんからのプロフェッショナルで的確なアドバイスには本当に助けられました。おかげで、スタインウェイの重厚な響きの中に、ヤマハの明るくクリアな音の輪郭が美しく溶け合う、これ以上ない「黄金のセッティング」を完成させることができたのです。

4. 拘りのセッティング:直球勝負の「ステレオワンマイク」
今回の収録にあたり、私はあえてマルチマイクによる複雑なシステムを避け、ホールの素晴らしい残響をそのまま活かす「メイン吊りマイク」と、2台のピアノの間に潔く配置した「至近距離のステレオマイク1本」という、極限までシンプルなセッティングに挑戦しました。
実はこれ、私が「前から一度やってみたかったセッティング」だったのです。2台ピアノって、スポットマイクを何本も立ててミキサー上で人工的に左右に音を振り分けると、音がごちゃごちゃして、どちらが弾いているのか分からなくなる「音響的カオス」になりがちなんです。
でも、この「潔くステレオワンマイク」という手法は大正解でした。左右のマイクの耳(ダイヤフラム)が、プリモ(丸山さん)とセカンド(村井さん)それぞれの音を、驚くほどクリアに捉えてくれたのです。想像していたよりもはるかにセパレーション(音の分離)が良く、電気的な加工を一切しない、実際のステージそのままの「自然なステレオ感」が生まれました。これにホールの天井から吊るしたメインマイクの音をミックスすると、もう「バッチリ!」のひとことです。
ぶつかり合う音を「一刀両断」するセンター配置
実は、対面した2台のピアノの真ん中というのは、おふたりのピアノから同時に出た音の波がぶつかり合って、特定の音が消えてしまう「音の打ち消し合い(コムフィルター効果)」が起きる、音響的にはすごくデンジャラスなエリアです。普通は避けるような場所なのですが、私はあえてそこを狙って、マイクを据えました。マイク位置はステージ中央からスタートして、音をモニターしながら、2台のピアノのバランスが取れる位置(下手側へシフト)に調整していきました。フルコンとセミコンでは左右から聞こえてくる音量と響きの違いが異なるので、聴感上のバランスを慎重に探っていきます。
こうすることで、左右のピアノからの音が自然なバランスでマイクに届くため、音干渉の嵐をセンターで見事に「一刀両断」できたのです。あとは、天井の吊りマイクと、この至近距離マイクの「音が届くわずかな時間差」をコンピューター上でピタッと合わせてあげるだけ。これで、霧が晴れたようにすっきり見通しのいい音になり、セッティングもスマートに決まりました。
大泉学園ゆめりあホールの実際のステージと同じ「生の躍動感」を記録
音質に関しては、打弦位置と、駒からの初期インパルス音が、プリモとセカンドで左右逆(鏡のような関係)になります。つまり、客席で実際に聴いているのと同じ音の広がりが、そのままステレオマイクに記録されるわけです。人工的で均一な響きではなく、おふたりのリアルな演奏の「熱量」や「躍動感」が、手に取るようにクリアに録音できたと思います。
5. たくさんの愛と感謝に包まれた、感動のフィナーレ
すべての演奏が終わり、最後の一音がホールに消え去った瞬間、割れんばかりの拍手と温かい喝采が会場を包み込みました。

コンサートのラスト、丸山葉子さんからのご挨拶では、学生時代から苦楽をともにしてきた村井さんへの深い信頼と感謝の気持ち、精度高く温かい準備を整えてくれたホールの人々、そして何より足を運んでくださったお客様への温かい感謝が、お人柄がにじみ出るような優しい声で語られました。
お互いの出す音に瞬時に反応し、ときに寄り添い、ときに激しく情熱を高め合う。長年の信頼関係があるからこそできる、おふたりの極上のパフォーマンス。
ホールに響き渡った、あの奇跡の瞬間の「温度」をそのまま詰め込んだこの音の記録が、いつまでも色褪せることなく、おふたりの「時代を超えた輝き」を伝え続けてくれることを願っています。
当日の演奏から一部をご紹介します。
モーツァルト 2台ピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 第一楽章 Allegro con Spirito
Wolfgang Amadeus Mozart Sonate für 2 Klaviere D-Dur K.448 Allegro con Spirito




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