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わずか2Hzの差はピアノの何を変えるのか?―現代グランドピアノにおけるピッチに関する音響物理学的分析 440Hz vs 442Hz ―

  • 執筆者の写真: STUDIO 407 酒井崇裕
    STUDIO 407 酒井崇裕
  • 6 日前
  • 読了時間: 3分

今日の日本のクラシック音楽界では、A=442Hzが事実上の標準ピッチとして定着しています。1939年に制定された国際標準ISO(A4=440Hz)との差はわずかですが、その間には歴史的な紆余曲折があり、現代でもオーケストラが響きの緊張感や輝きを求め、442〜444Hzといったハイピッチを採用する例は少なくありません。カラヤン時代のベルリン・フィルがその典型と言えるでしょう。一般的にも、ピッチを上げることは音に明度と張りを与えるとされています。


では、ピアノがソロ楽器として用いられる場合はどうでしょうか。アンサンブルと異なり、絶対的なピッチの整合性は求められないため、奏者が好む周波数に設定しても理論上は問題ありません。しかし、毎回ピッチを変えることは調律師の負担や楽器へのストレスを考えると現実的ではなく、多くのピアノは慣習的にA=442Hzで調律されています。


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ピアノの響きの観点では「2Hz程度の差異は無視できる」という認識が一般的です。しかし、物理という視座から眺めてみると、話はそれほど単純ではありません。筆者の素朴な疑問から始まった今回の検証によれば、周波数差は微小であっても、張力や力学的パラメータの変化量は決して微差とは言い切れないのです。ピアノ全体に作用する総テンション、弦が駒を響板に押し付けるダウンベアリング圧、さらにはインハーモニシティや倍音構造の変化といった要素を計算すると、楽器が“440Hzモード”と“442Hzモード”という異なる状態に遷移しているとすら考えたくなります。


もちろん、これはあくまで机上の物理計算に過ぎません。実際の響きを決定づける要因はこれよりはるかに多様です。整音によるハンマーフェルトの状態、技術者の調律方法、ストレッチチューニングの度合いなど、職人的な営みによって生じる質感は単純な数値化を超えた複雑さを持っています。そうした意味では、本稿の計算は「2Hzの違いであっても物理的には確実に状態変化が生じる」という事実を単に定量的に示しただけに過ぎないのかも知れません。


本稿執筆のもう一つの動機は、1965年にホロヴィッツがカーネギーホールで復帰を果たした際のライブ録音にあります。人間の声のように歌い、雷鳴のように轟くフォルテッシモ——その秘密がホロヴィッツ自身の芸術性にあることは疑いようもありませんが、生涯で極めて限られた数しか演奏しなかった彼専用のピアノにも、何らかの核心が内包されていたと想像されます。そして、専属調律師フランツ・モア氏がホロヴィッツのピアノをA=440Hzで整備していたという記録に触れたとき、現代とは違う、その“わずかな違い”にも意味があるのではないかと思うようになりました。


ピアノの個性、整音・整調・調律、奏者のタッチ——そこに物理的なピッチ差がどの程度寄与しているのか。明確な答えを出すのは容易ではありません。が、しかし、わずか2Hzであっても、ピアノが別のモードへ移行する可能性を秘めているという事実を可視化することが、本稿のささやかな目的です。



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