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【CDリリース】飯島聡史『フリデリク・ショパン ―受容と伝播―』~不均一性が生み出す美、1843年製プレイエルとの親密な対話~

  • 執筆者の写真: STUDIO 407 酒井崇裕
    STUDIO 407 酒井崇裕
  • 5月20日
  • 読了時間: 6分

年末も押し迫った2025年12月末の相模湖交流センター(ラックスマンホール)。誰もいない客席の静寂のなか、ステージ上には一台の歴史的なピアノがひっそりと息づいていました。タカギクラヴィア株式会社所有の1843年製プレイエル(製造番号No.10456)。

この名器とともに、ピアニスト・飯島聡史さんが紡ぎ出したニューアルバム『フリデリク・ショパン ―受容と伝播―』のリリースにあたり、レコーディング空間での様子を、音の記録者としての視点からお話ししたいと思います。


1843年製プレイエル

ショパンの魂に触れるための「知性」― 飯島聡史の音楽像

飯島聡史さんという音楽家を語る上で、「ショパンのテンポ・ルバートに関する研究と演奏」で博士号を取得されたという学術的な背景は欠かせません。しかし、彼の演奏を一度でも耳にすれば、その研究が決して机上の空論や、過去の様式を冷たく再現するためのものではないことがすぐに分かります。

飯島さんの奥底にあるのは、「ショパンという人間が、当時何を想い、どう息をして音楽を奏でていたのか」に肉薄したいという、途方もなく熱く、深い渇望です。彼にとっての歴史的文献や楽譜の探求は、ショパンの魂と直接対話するための言語を習得する作業に他なりません。

彼が紡ぎ出すルバートは、ただ揺らぐだけではなく、和声の移ろいや旋律の息継ぎと完全にシンクロし、まるで19世紀のパリのサロンでショパン本人が即興演奏をしているかのような、生々しい体温を持っています。膨大な知性はすべて、この圧倒的な「エモーション」を表現するために捧げられているのです。


師から弟子へ。音で辿る「受容と伝播」の物語

本作のプログラムは、非常にコンセプチュアルで知的好奇心をくすぐる構成となっています。ショパンの名曲をただ羅列するのではなく、彼を取り巻く音楽家たちの「点と点」を線で結ぶ試みです。

ショパンの才能を見出したワルシャワ音楽院院長エルスネル、同時代のクルピンスキ、そしてショパンに多大な影響を与えたとされるシマノフスカ。さらに後半では、愛弟子であるグートマンや、14歳でこの世を去った天才フィルチの作品が並びます。

これらの作品とショパン自身のマズルカ(Op.24)やノクターン(Op.32)を交互に聴くことで、「ショパンがどのような音の言語を吸収し、それを後世にどう手渡していったのか」が、極めて立体的に浮かび上がってきます。


「不均一性が生み出す美」 ― 友人と語り合うようなプレイエルとの対話

そして、この歴史的な音の物語を紡ぐための「声」となったのが、1843年製プレイエルです。

現代のピアノが、どの音域も均質に、そして遠くまで鳴り響くように進化してきたのに対し、この時代のプレイエルは独特な「不均一性」を持っています。低音のチェロのような深い唸り、中音域の温かな肉声、高音域の儚い煌めき。

レコーディングでは当然ながら複数のテイクを重ねていきますが、このプレイエルはその極めて繊細でデリケートな性質ゆえに、テイクごとにまるで別人のような全く異なる表情を見せました。指先のほんのわずかなニュアンスの違いが、響きの色彩を劇的に変化させるのです。

その一筋縄ではいかない楽器に対し、飯島さんは決して自分の音楽を力で押し付けることはしませんでした。まるで長年の友人と親密に語り合うかのように、「ここではどう歌いたい?」と優しく問いかけながら鍵盤に触れていく。プロデューサーであり調律師である髙木裕氏(タカギクラヴィア)による調律・整音に応えるように、プレイエルが心を開き、思いもよらない美しい響きがホールに放たれる。

この対話が成立したのは、飯島さんの歴史的楽器に対する深い愛情と、それを根底で支える極めて強靭で確かな演奏テクニックがあったからこそです。楽器のスイートスポットを的確に捉え、声部ごとにタッチを繊細にコントロールする確固たる技術力があって初めて、この血の通った有機的な音楽のやり取りが生み出されたのです。


手掴みできるほどの「生々しさ」を記録する

私たちSTUDIO 407の使命は、ピアニストと楽器が織りなす親密な対話を、手を伸ばせば触れられるほどの生々しさで記録することです。

テイクごとに千変万化するプレイエルの響き。その繊細なニュアンスのグラデーションを余すところなく捉えるには、録音機材に徹底した透明度と厳格な音の立ち上がりが求められます。私たちがDXD(352.8kHz/32bit)という超高解像度フォーマットにこだわり、超広帯域マイクロホン「Ehrlund EHR-T(7Hz~87kHz)」を採用しているのは、決してスペックを誇示するためではありません。

純粋な音声信号を「SPL Crescendo Duo」プリアンプの広大なヘッドルームで受け止め、「Grimm Audio CC2」マスタークロックによる厳密な時間管理のもとで記録する。

さらに、導入を進めている「マイクロ多孔質吸音球体バッフル(サイレントボール)AB方式」によって、空間情報のゆがみを抑えた極めて自然なステレオイメージを創り出します。

プレイエルのハンマーが弦を打つ瞬間の生々しいアタック、複雑に絡み合う倍音、そして飯島さんの指先から立ち上る微細な息遣い――。その「有機的な音楽のやり取り」の質感を、一切の曇りなく無傷のままリスナーの耳元へ届けること。私たちが用いるすべての高度な機材は、この美しき対話に敬意を払い、「黒衣」として奉仕するためにのみ存在しているのです。


おわりに

『フリデリク・ショパン ―受容と伝播―』。

ここには、飯島聡史さんの深い愛情と確かな技術、1843年の名器が魅せる多彩な表情、緻密に構成されたプログラムの妙、そして相模湖の冬の静謐な空気が、奇跡的なバランスで封じ込められています。

再生ボタンを押した瞬間、目の前にマホガニーのプレイエルが現れ、飯島さんが楽器と語り合う姿がビビッドに浮かび上がるはずです。ピアノ音楽を愛するすべての方に、この触れられそうなほどの「生々しい音楽体験」をお届けできることを、録音エンジニアとして心より願っております。


フリデリク・ショパン ―受容と伝播―
飯島聡史『フリデリク・ショパン ―受容と伝播―』 (Fryderyk Chopin - Reception and Transmission)

【CD情報】

  • ピアノ: 飯島聡史 (Satoshi Iijima)

  • 使用楽器: 1843年製プレイエル(マホガニーケース / 製造番号No.10456 / タカギクラヴィア株式会社所有)

  • 品番: TKI-26501

  • レーベル: タカギクラヴィア

収録プログラム

  • ユゼフ・エルスネル: マズルカ風ロンド ハ長調

  • カロル・クルピンスキ: ポロネーズ ニ短調

  • マリア・シマノフスカ: ノクターン 変ロ長調

  • アドルフ・グートマン: ノクターン 変イ長調 Op.8-1

  • カール・フィルチ: 初めての音楽的思考 Op.3 (1. 無言歌 ホ短調 / 2. 舟歌 変ト長調 / 3. マズルカ 変ホ短調)

  • フリデリク・ショパン: 4つのマズルカ Op.24、2つのノクターン Op.32

レコーディング・データ

  • 録音日程: 2025年12月27日~28日

  • 録音会場: 相模湖交流センター ラックスマンホール

  • Recording Producer & Piano Technician: 髙木 裕 (Takagi Klavier Inc.)

  • Recording, Editing & Mastering Engineer: 酒井 崇裕 (STUDIO 407)



 
 
 

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事業者名

STUDIO 407(スタジオ ヨンマルナナ)

運営統括責任者

酒井 崇裕

所在地

〒221-0063
神奈川県横浜市神奈川区立町23-36-407

電話番号

090-6473-0859

メールアドレス

ozzsakai@gmail.com

URL

https://www.studio407.biz

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