2月18、19の2日間で、木村智明さんのピアノレコーディングをしてきました。木村さんとは2017年からレコーディングをスタートしていますが、収録音源もだいぶ蓄積されてきて、今後が楽しみのプログラムのひとつです。前回と前々回は、1887年製・ローズウッド・スタインウェイでのレコーディングでしたが、今回は通称ニューブルグ・スタインウェイと言われているピアノで、前回同様タカギクラヴィアさんにお世話になりました。
このピアノは1982年製で、この頃に製造されたハンブルグ・スタインウェイはドイツ・クラフトマンシップの頂点だった頃とも言われており、芯のある透明感溢れる音色と倍音が伸びたブリリアントな響きが特徴。このピアノを弾いた著名なピアニストは、列挙しきれないほどで、国内アーティスはもちろんのこと、アシュケナージ、ランラン、ユンディ・リー、ケマル・ゲキチ、ディーナ・ヨッフェ、ブーニン、アリス=紗良・オット、ユリアナ・アブデーエワなど多くのピアニストを魅了しています。
今回このピアノを選択したのは楽曲に合う音色ということもありますが、ちょっとチャレンジングな手法を用いて収録することが目的でした。昨年のセッションでこの手法を使ってテスト録音したのですが、興味深い響きが得られるため、今回、本番収録を実行することになりました。引き続き継続して音源を収録していく予定ですので今後がとても楽しみです。
木村さんの活動についてはホームページを覗いてみてください。英国での生活やピアノのことなど綴っていらっしゃいます。
一般的にホールでの録音は、控室などの別室にモニター・ルームを設営して、演奏者とのコミュニケーションは、小さいトーク・バックスピーカーで行われることが多いのですが、私は、なんとなく、空間の隔たり以外に心理的な壁が生じるような気がして、演奏者と同じ空間を共有しながらレコーディングすることを好みます。演奏者との距離の近さもさることながら、表情や様子を見がらアイ・コンタクトでキュー出しする方が良いテイクにつながるような気がしています。
もうひとつの理由は、控室でモニターする場合、室内音響に問題があるケースが多く、正しいモニター環境を構築するのに苦労することが多いからです。当然のことながら控室・楽屋は音響のことなど念頭に置いて設計されている訳ではないですから、重量級のスピーカースタンドや吸音材・ディフューザーの類を施しても、好ましいモニター環境を得られるとは限りません。しかしながら、ピアノの音を見張るピアノ技術者、音楽的なディレクションをするデレクターや進行を担当する方など、演奏者とエンジア以外の関係者が別室でのモニターを必要としており、この点を何とかスマートに解決したいと思っていました。
今回、Gelenec社のGLM™のスピーカー・キャリブレーションを実行してモニター環境を構築しました。モニター・スピーカーは出音もさることながら、実のところ部屋の音響特性に大きく左右されます。このシステムは、スピーカーが置かれた部屋の音響特性を専用マイクで測定し、正しくフラットになるように補正を実行してくれるので信頼性があります。物理的な対策を最小限にして、信頼性のあるモニター環境を構築できるので安心です。