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  • Takahiro Sakai

まず押さえたい「3つの重要ポイント」 -成功するピアノの録音②-


ー録音レベルとマイクセッティングー

前回はピアノの構造と響きについてイメージしていただきました。今回から上手くピアノを録音できるポイントを記していきたいと思います。

一言にピアノの録音といっても、演奏会場で録音するのか、自宅で録音するのか、レンタルスタジオで録音するのかなど、状況が様々だと思いますし、準備できるマイクや録音機材の幅も広いと思います。また、鑑賞用として残しておきたいのか、演奏チェックのためなのか、コンクールの選考に出すための音源なのかなど目的も様々と思います。この連載では、こうした様々な状況に対応するのに有用なポイントをできるだけ取り上げたいと思います。まず、どのような状況であっても共通して言えることを整理し、続いて具体的な方法論について触れる順序で進めたいと思います。ブログの記述としてはちょっと分量があり、概念的な記述も多いかも知れませんが、様々な局面で応用が利くような内容にしたいと思います。録音機器の選択については、このブログの【成功するはじめての演奏会録音】②と③も合わせて参考にしてみてください。

1.失敗しない【録音レベルの設定】のポイント

初めてピアノを録音してみたが、再生して聞いてみたら、歪んだ音が聞こえたり、ビリビリとしたノイズが聞こえてきてがっかりしたという経験をお持ちの方は多いと思います。これは録音レベルの設定に失敗していることが原因と考えられます。録音レベルを適性に設定することは、どんな録音であっても基本となる重要事項ですが、ピアノに関してはことさら神経質に扱う必要が出てきます。

1-1.他の楽器と違うピアノ独特の音の特徴を理解しよう

その理由は、ピアノの発音原理とピアノ独特の音の特徴に起因します。前回、「なぜピアノの録音は難しいのか」でピアノの響きを大きく要素分解しましたが、この中でハンマーと弦がぶつかる時に出るノック音は鋭く立ち上がるピークを持ち、録音レベルの許容範囲を決定づけます。トータルで20トン余りの強い張力でピンとはった金属の弦を、鍵盤を押すごとにハンマーで叩く衝撃音です。ですから大きな音で録音したいと気軽にレベル設定をすると、このピーク音が録音レベルの許容範囲を突き抜け、歪みとなってしまいます。

1-2.録音レベルの設定は 曲の最大音量の部分を基準にしよう

これを避けるには、録音したい曲の一番強く弾く部分を基準に録音レベルの設定を行いますが、最大音の入力レベルが録音メータの最大値からー3.0dB~-6.0dBの範囲になるようにすると上手く歪みを避けることができます。つまり若干、余裕を持って設定するわけです。人間というのは、部分的に意識して強く弾こうとするより、演奏の中でfffを弾く時の方が大きな音になる場合が多いので、これを読んで録音レベルの余裕を設けます。

1-3.録音機器の機能(自動設定)を使う時のポイント

最近のハンディレコーダーは、自動で録音レベルを設定してくれる機能や、リミッター(音のピークを潰して録音許容範囲に収める信号処理)を備えているものもあるので、状況に応じて活用してみてもいいと思います。ただその際、まったく機械にお任せという意識ではなく、自身の中でピークを上手く収めて録音しようとする意識を持ちながら、補助的に使う方が後々の録音スキル向上に有益だと思います。オートモードは信号処理のプロセスを経るので、音質的には必ずしも好ましいとは言えない場合があるため、可能な限りマニュアルモードにチャレンジしてみてください。得たい音のイメージによっては積極的にリミッターを使って音を創り込むことも可能ですが、ここでの主旨とは外れますので割愛します。

2.録音の質を左右する 【マイクセッティング】

マイクの設置位置をどうするかというのも録音レベルの設定と並んで大変重要になってきます。どんな種類のマイクを選択するかという点も録音したい音の質を決めるのに重要ですが、ここでは、既にマイクや録音機器をお持ちという前提に立って、共通して言えることを説明します。

2-1.音源からのマイク位置と音質の関係を意識しよう

まず、容易に想像しやすいのは、マイクの位置と音像の距離感の関係です。音源にマイクを近づければ直接音の割合が増え、マイクを離せば間接音(音源が発した音が部屋の壁や物体に当たって反射して届く音)の割合が多くなります。また、音のキャラクター自体も音源からの距離で変わってきます。ちょっと比喩的になりますが、内緒話を耳元で聞く時の声と普段のその人が話す声の感じ方は、話し方の違いを差し引いても、質感的にだいぶ違うことが分かります。生々しい感じや声の存在感の違いを感じ取ることができると思います。楽器を録音する場合もこれと同じで、生々しい質感を得たいのか、それとも全体像を表現したいのかでマイクの距離を考えます。また、近接効果と言って指向性のあるマイクを音源に近づけると低域が強調される現象も作用してきます。

2-2.ピアノという巨大な楽器の響きをどう録るか

音源とマイクの距離の関係だけでも大きく音の質は変わってくるのに加え、ピアノの場合、楽器自体が巨大なため、マイクが狙う位置や方向によって音のキャラクターは大きく違ってきます。ここで再度、前回ご説明した「なぜピアノの録音は難しいのか」で取り上げたピアノの構造と響きについて振り返ってみてください。ピアノを構成する構造体はそれぞれ質の違う響きを持っていますので、マイクが狙う方向はピアノが持つ響きのどこに焦点を当てて録音するかということになります。実際にはマイクの指向性との関係があり、焦点という言葉は適切ではないかも知れませんが、ピアノの持つ多様な響きの中でどこに重心を置いてマイクを設置するかということになります。例えば、パリッとしてアタックの効いた音をイメージしているのであれば、ハンマーがあるエリア付近を狙い、伸びやかで自然な音が欲しいのであれば、開けた蓋の縁から少し離した位置にマイクを置いてピアノ全体を狙うといった具合です。また、ピアノは低域から高域まで幅広く弦が配置されているため、これを偏ることなく録音するという点も重要です。ここまでは暗黙にオンマイク(近接に設置するマイク)のセッティングを説明してきましたが、ピアノ全体の響きと会場の響きを捕捉するオフマイク(距離を離したマイク)が設置できるのであれば、より自然な録音が可能になります。この場合は冒頭に述べた直接音と間接音のコントロールが問題となってきて、音像が遠くなり過ぎず、かつ存在感があるピアノの音を得るのが理想です。

2-3.音と映像で具体的にマイクセッティングを体感しよう

マイクのセッティングによってどのようにピアノの録音が変わるのか、良い例がありますのでご紹介しておきます。

・マイクセッティングによる音の違い 1

・マイクセッティングによる音の違い 2 (後半のプロセッサー処理も参考になります)

さらに興味のある方向け

・マイクの違いによる音の違い

・ピアノ専用マイク (ちょっと宣伝チックですが。。)

上記の例は、恵まれた環境での録音なので、実際に皆さんが録音する環境とはかけ離れているかも知れませんが、マイクのセッティングで音がどう変わるかを感じていただけたと思います。制限のある日本の住環境における録音のコツについては追って説明していきたいと思います。

3.録音を成功させるための5ステップ

以上、マイクセッティングについて説明してきましたが、マイクの位置を変えると当然、録音レベルも調整する必要が出てきます。つまり、1で説明した適正レベルでの録音です。従って、録音作業は、1と2を往復しながら望む設定を詰めていく作業となります。これを進めるにあたって以下のポイントを意識すると良いと思います。

①自分のイメージしている音色に近い音が聞こえる場所を「耳」で聞きながら探す

②場所の検討がついたらそこにマイクを設置してマイク通した音を聞いてみる

③不満な部分があったらはじめに決めた場所から少しズラしたり離したりして好ましい場所を探す

④音像の距離感が望んだ状態になっているか確認する(必要があればマイクの距離を調整する)

⑤満足いくマイク位置が決まったら録音レベルを設定する(①の最大音で歪まない設定を)

各作業を繰り返しながら、最善な設定を詰めていきます。録音レベル、音色、距離感と、連立方程式の解を求めていくようなイメージです。そうは言っても、まったくの白紙から始めたのでは大変ですので、標準的なマイクセッティングのいくつかをお手本に始めるのがよいと思います。ピアノが置かれている環境によって録音は大きく変わりますので標準的なセッティングはあくまでもスタートとして考え、自分の耳で確認しながら試行錯誤してみてください。

DPAの代表的なマイクセッティングを参考に挙げておきます。

Miking a Grand Piano with DPA Microphones

次回は、一番ケースとして多いと思われる、自宅での録音ノウハウについて綴ろうと思います。制限のある中でいかに工夫して良い音を録音するかというチャレンジングなテーマになります。

#録音ノウハウ

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