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432Hz モダンピアノのレコーディング Kunikoさん

  • 執筆者の写真: STUDIO 407 酒井崇裕
    STUDIO 407 酒井崇裕
  • 2020年11月11日
  • 読了時間: 4分

更新日:2月12日

10月4日にA432Hzピッチのモダン・ピアノのレコーディングをしてきました。皆さんご存じの通り、現代クラシック音楽のピッチはA442Hzが主流となっており、世界標準ピッチであるA440Hzは1939年のロンドン会議で決められました。従って、私達が耳にする音楽の多くは、A440近辺(クラシックでは442Hz、ポップスでは441Hz)で調律されたものを聴いていることになります。

歴史を辿ると、標準ピッチが決められる前は、地域、時代、または演奏が行われるその場の楽器編成などによって、さまざまなピッチが採用されていました。17世紀から19世紀にかけて、基準ピッチとしてのAの音はA380Hz~A500Hzくらいまでと、かなり幅とばらつきがありました。時代が進み国際化の進展にともない音楽家の交流が進むにつれ、不都合が生じてきたため、世界標準としてのA440Hzが決められたという経緯があります。

しかしながら、現代の私達がクラシック音楽として認識している当時の作曲家達が生きた時代のピッチは、A392Hz(14世紀~フランス革命に至るフランス宮廷で採用)、A415Hz(バッハ以前のいわゆるバロック音楽)、A430Hz(古典派~ロマン派にかけての時代でウィーン・ピッチとかモーツァルトなどと呼ばれることもある)であったことが学術研究によって推定されています。

そうなると、現代のA442Hzではなく、作曲された当時のピッチでクラシック音楽を聴いてみたいと興味が湧いてきます。古楽器の演奏では楽器もピッチもその時代オリジナルに近いものを聴くことができますが、今回の試みはA432Hzに調整されたモダンピアノでのレコーディング。どんな響きが聞こえるのか大変興味深いレコーディングになりました。


432Hz モダンピアノ

ひとことでA432Hzにピッチを変えるといっても、単純に調律を下げるというだけでは一筋縄ではいかない状況があるそうです。私のつたない想像で言えば、現代のモダンピアノはA442を前提としたつくりとなっているため、ピアノを構成する部材の物性が大きく関わってくるものと思います。とくに弦の総張力は20トンにも及ぶため、442Hzと432Hzでは別物といってもいいほど物性モードが違ってくるものと想像されます。平たく言えば、A442Hzから432Hzにピッチを下げただけでは、そのピアノがA432のモードとして安定しておらず、部材の物性が非常に不安定な状態になってしまう。

今回準備されたA432モダンピアノはタカギクラヴィアの髙木さんの手によって、初めからA432ピッチ前提としてピアノを構成する部品や部材を見直し、時間をかけてじっくり制作されたものだそうです。長年のピアノ技術者としての経験と知識、蓄積されたノウハウを投入しなければA432Hzモダンピアノは出来上がらなかったと思います。

果たしてどういう響きなのか期待を膨らませてレコーディング現場に向かいましたが、そこで聞いた響きは、一言でいえば身体になじむというか、すっと自然に沁み込むような印象でした。一説には、人間の声になじむピッチだそうで、ピアノが歌うということを考えさせてくれました。そもそも人間の身体サイズは多少のばらつきはあるものの、マクロでみれば時代や場所に関わらずほぼ同じ。人間の声がピッチのルーツと考えれば、人間に心地よいピッチがあり得るかも知れないということは納得がいくように思います。西洋とは遠く隔たった、いにしえの雅楽のピッチも同じ430Hz近辺だったとの話もあり、つまるところ、音楽は人なのだなぁと思います。


432Hz モダンピアノのレコーディング

似たようなことにテンポと心臓の鼓動との関係を考えさせられた実体験がありました。ある曲をミックスしていて、一旦、シャワーを浴びて出てきたところ、浴びる前よりテンポが遅く感じて戸惑ったことがあります。心臓の鼓動が速くなっていたので相対的にその曲のテンポが遅く感じたのです。そう考えると、音楽を聴くといっても、私達の心の状態や身体のコンディションによって、その音楽は違う意味を帯びてくるようにも感じられ、心の健康ということに思いが至ります。

レコーディングした音源は、近くCDとして発売されます。Kunikoさんの432Hzピアノの響きが多くの方の心に届くことを楽しみにしています。


432Hz モダンピアノのレコーディング

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