おんがくしつトリオさんのMVが現在公開中です。公開直後から、最高に楽しくてスリリングと絶賛の声が多く寄せられています。今回のMV収録は、映像作家の上田謙太郎さんが監督し、Sala MASAKAさんで収録されました。STUDIO 407も音の録音で参加させていただきました。
おんがくしつトリオ
映像作家 上田謙太郎
収録当日のスケジュールは、まず曲のレコーディングを行い、その後すぐに編集してOKテイクを仕上げ、直後、ビデオ収録という流れで、少し慌ただしい感じでしたが、底抜けに楽しい時間で、終始笑いが絶えない収録でした。その雰囲気が見事に収められたビデオになったと思います。
レコーディングですが、おんがくしつトリオさんの独特なアンサンブルとSala MASAKAさんの響きが感じられるよう、ワンポイント収録を基本として行いました。まるで、おんがく室に招き入れられ、身を投じて聴いているようなサウンドを狙いました。
アンサンブルの録音方法は大きく分けると、各楽器のかぶりを少なくセパレーションを確保して、後のMixの段階でバランスを取る方法と、アンサンブル全体をワンポイントで録音する方法があります。
前者は、各楽器のディテールとバランスを後から詰めることが出来ることがメリットですが、その場の空間の一体感や雰囲気、自然な響きを得るにはワンポイント録音の方が適しています。ただし、後からバランスを変えられませんので、演奏時のアコースティック・バランスが全てになります。ですので、おのずと演奏者の技量はもちろん、アンサンブルを醸し出す高い音楽性が要求されます。おんがくしつトリオの皆さんは、この収録方法でも申し分のない演奏をされるので、まったく不安はありませんでした。
収録の時に立ち位置を決めたり、ソロ・パートは「一歩前へ、ちょいと右へ、角度をマイク方向へ」などとリハーサルしながら、バランスを決めていきます。こうした録音方法は、後から電気的に定位、音量、奥行き感をデザインするのとは違い、ある意味では贅沢な方法と言えます。パンで左右に振ったり、フェーダーで音量を調節するのは、ただ、点音源が左右に寄ったり、音量が小さくなるだけですが、奏者の位置や角度を変えれば、初期反射から残響、奥行き、音の減衰、音量、周波数特性といった物理特性のみならず、響きのバランスの違いによってリアルタイムに各奏者の演奏が変わってきますので、ドラスティックに全てが変わってきます。空間情報の複雑性が別次元に違う。楽器の音を収録するというよりは、合奏される空間と時間を鮮度よく切り取るという感じ。そして何よりも生きた演奏をスリリングに収録できます。
音源収録が完了した後、2階奥に陣取り、音の頭出しでビデオ収録のお手伝い。監督の上田さんが、3軸カメラジンバルを駆使しながら、ホールを縦横無尽に駆け廻る姿を見ながら、何かが生まれる現場にいるのだなぁとワクワクしました。収録後に上田さんが、「下手に各々の演奏箇所でカット割りを作るより、半分計算半分即興で目まぐるしくグルグルして行こうと」と綴っていますが、予定調和な収録より断然面白くてエキサイティングですね。音の収録も、まさにそうした方向を目指しておりましたので、通じるところを感じてとても嬉しく思いました。Sala MASAKAさんという場で面白いケミカルが生じたように思います。
おんがくしつトリオさんは、ビデオになった音源に加え、既にレコーディングしている曲を収めたミニ・アルバムもリリース予定とのことですので、ホームページ等でチェックしてみてください。私もとても楽しみです。