11月30日に府中芸術の森劇場・ウィーンホールで、ピアノと声楽の収録をしてきました。2015年から始まったこの収録も回を重ねるごとに録音方法の改善を進めてきました。ウィーンホールに設置されている残響可変装置は、天井に432本の白い筒状のパイプ状の棒を配しており、その上げ下げで残響時間を調節できます。スタート時はデッドな状態からでしたが、回を進めるごとに響く方向に設定を変えて、今回は12段階中、4(響く方向)に設定しました。ピアノ・ソロの場合、響き過ぎると、音のクリアネスが失われるため、過度に長い残響時間はむしろ悪影響を及ぼします。しかし、この収録は、ピアノと声の同時収録のため、声の雄大な感じや広がりも欲しい。どの程度の残響設定にするのか、また、マイクの距離が音像のリアリティに深く影響してきますので、一番よいバランスを探りながら設定を摸索してきました。前回の収録の残響可変装置の設定は5で、かなりよいバランスになった実感がありましたので、今回は少しだけ冒険してみたという格好です。
それから、今まで気になっていた信号経路もシンプルにしてみました。ホールの3点吊り装置は、長い経路を伝わってマイクレベルの微弱信号が遥々舞台袖までやって来ますが、途中、照明装置や他の吊物機構の近傍を這ってくるものと想像され、どうしても信号がノイジーになってしまいます。そこで、今回は吊ったマイクから直接ケーブルをひき、マイクプリアンプに直結してみました。モニターしてみると、ステレオイメージの広がりと奥行き感がクリアになり、空気感が豊かになりました。弱音もよりリアルに感じられ見通しがよくなる。繊細な音や微かな音はノイズに埋もれてしまう傾向にあるため、信号経路をクリアにすることによって、音質や表現全体の改善をすることが出来きます。
豊かな声量で歌いながらピアノを弾く玉木先生の演奏は、サスティンペダルを踏んだ時に、声とピアノが共鳴して、独特な音場をつくります。加えて、その響きはホール全体に広がっていって、雄大で幻想的な雰囲気を醸し出します。生で聞いたときの印象を録音として残すよう、更に改善ポイントを洗い出して次回に備えたいと思います。
収録した中から2曲ご紹介します。