2月10日にピアノと声楽の収録をしてきました。この日は朝から夕方まで、幼稚園の演奏会の収録があり、その後、撤去も慌ただしく直後の再セッティングの収録で忙しい日でした。
収録はこのブログでも何回かご紹介している玉木豊さんのピアノ演奏に合わせた声楽です。2015年にピアノスタジオから始まったこの収録も回を重ね、玉木さん独特の世界観を描く収録方法を探ってきました。ピアノ演奏をしながら豊かな声量で歌うスタイルも音楽的に特異ですが、その響きは、声とピアノが共鳴し、その響きがホール全体に広がって壮大なサウンドイメージを創り上げます。生で聞いた時の印象を何とか録音に落とし込もうと実験的な収録方法を探ってきましたが、今回の収録はかなり手ごたえのあるものになりました。
会場は、府中の森芸術劇場のウィーンホールで、このホールの売りでもある、残響可変装置によって残響をコントロールしました。ホール天井に432本の白い筒状のパイプの棒が設置されてあり、ホールの残響時間を調節することができます。装置は電動で調節が可能で、空席時には2.16~2.67秒、満席時には1.8秒~2.2秒まで変化させることが可能です。長さ2.2メートルのパイプをいっぱいに出した状態と格納した状態では、約0.5~0.6秒の残響の差をつけることができる計算です。これまで、12段階(0:ライブ-12:デッド)の7、6、と響きの程度を変えて収録してきましたが、今回は、真ん中より若干響く方向の5としました。
ピアノは声と響きが一体になるように、大屋根を外し、ステージ中央に約15度の角度をつけて配置しました。発せられるピアノと声が震源になってホール全体に伝搬し響きが溢れるようなイメージです。マイクは、ピアノ上部から音源を狙い、ホールとピアノ&声が混然一体となった響きを吊りマイクで捉えるセッティングとしました。
収録曲は全7曲で、すべてピアノと歌の即興曲でした。リルケの詩集から想起される世界をピアノと声で表現する内容で、演奏前に詩集を読み、浮かんだイメージですぐさま演奏するというスタイルで収録していきました。印象主義、象徴主義のドイツ語詩人として著名なリルケは、オーギュスト・ロダンとの交流を通じて、その芸術性に影響を受け、詩という言語表現を深化させたことで知られています。玉木さんは、そうしたリルケの詩の世界を、ピアノと声によって即興で描いていく融合芸術の試みをライフワークとして取り組んでいらっしゃいます。
収録した一部をお聴きください。