ースムーズな作業に欠かせないグッズをご紹介―
今回は、録音作業をする際に必須なアイテムと揃えておくと便利もしくは、より質の高い録音のためのグッズを紹介したいと思います。録音機材を揃える場合、マイクやレコーダー、オーディオ・インターフェイスなどメインの機材にどうしても注意が行きがちで、予算配分もこれを中心に考えがちと思いますが、必要となってくる周辺機材を予算に織り込んでおくことをお勧めします。メイン機材で予算を使い果たしてしまい、いざ録音となり、不足機材の追加購入の必要が出てきて、思いのほか費用がかかってしまったというケースに陥らないよう事前に計画を立てて置きましょう。必要度が高いおおよその順番からご紹介していきます。
1. マイクスタンド
マイクを買ってマイクスタンドを買わなかったということはあまり考えられないと思いますが、マイクの本数分のスタンドはしっかり揃えておきましょう。その際、「絶対ケチらない」ことをお勧めします。あまり安いものを購入すると、安定性が悪かったり、ジョイント部分が壊れてしまったり後悔することになります。とくに生楽器を近接のマイクセッティングで収録する場合、安定性が悪いと、傾いて楽器にぶつかり、大切な楽器を傷めてしまうことがあり得ます。また、収音の質という点においても、重量のあるスタンドの方にアドバンテージがあります。やはりずっしりと重いものが好ましいのですが、移動のことも考えると躊躇してしまうところが悩ましいですね。名の通ったメーカーで標準的なスタンドであれば、バランスも良いですし信頼性という点で安心できます。
は種類も豊富ですし、関連アクセサリーも充実していますのでお勧めのメーカーです。
K&Mのサイト
2. ヘッドフォン
ヘッドフォンも必須アイテムです。昨今は電気店などにも専用コーナーが設置され、おびただしい種類のヘッドフォンが販売されているので、いったいどれを買ったらよいか迷う方も多いと思います。録音作業に使う場合は収音した音を「モニター」することを目的としますので、聞こえの心地よさやデザインなどの要素はそぎ落として選ぶことになります。まず出音が低域・高域に渡ってデフォルメされているようなものは避けるべきです。また、ノイズキャンセリング等の電気的な機能を備えたものも外した方が無難です。
ヘッドフォンは大きく分けて、密閉型とオープンエアー型の2種あります。密閉型はその名の通り、耳全体をパッドで覆い、外界の音をシャットアウトするような設計になっており、逆にヘッドフォンからの音漏れも少なくなります。オープンエアー型はユニット・ハウジングの背面が開放されており、音は外部にも発する構造になっています。音質的に言えば、どちらも一長一短で、一概にどちらが良いとは言えないのですが、密閉型は特定の周波数で共鳴しやすく音がこもりやすい一方、低域のダイナミックな表現に分があります。オープンエアー型は高域がナチュラルで伸びやかですが、低域再現は苦手です。長時間でも疲れにくいのはオープンエアー型ですが、外界に音が漏れてしまうので、録音現場では基本的に密閉型を選択することが多いと思います。
ちなみに、レコーディング・スタジオではソニーのMDR-CD900STが定番となっており、どこのスタジオでも必ず目にします。興味のある方は、こちらもご参考にしてください。
SONY MDR-CD900STヘッドホン改造
3. デシケーター(シリカゲルなどの湿気防止対策)
デシケーターはコンデンサー・マイクを買ったら揃えておきたいアイテムですが、ちょっと値段が張るので(小型で2万円程度から)後回しにしてしまいがちの品だと思います。しかし、せっかくコンデンサー・マイクを買ったのであれば、必ず湿気対策を施して保管するようにしましょう。コンデンサー・マイクはとてもデリケートなものから比較的扱いに関してそれほど気にしなくてもいいものまでありますが、高温多湿のところに長く放置しない、乱暴な取り扱いをしないというのは鉄則です。特に冬場は、冷え切ったマイクを暖房の効いた室内で急に取り出すと、結露を起こしてマイクを傷めてしまうことがあり注意が必要です。ノイズの発生や特性の劣化を引き起こしてマイクをダメにしてしまいます。ケースから出す前に室温に馴染ませてから取り出しましょう。
理想はデシケーターでのマイク保管ですが、マイク付属のハードケースがある場合は、その中にシリカゲルを一袋入れて保管しておくとよいです。ハードケースがない場合は、密封性のある容器を用意して、その中にシリカゲルを入れてマイクを保管すると良いと思います。長期的に録音を本格的にやって行こうとする方や、マイクの本数が多い方は是非、デシケーターを検討してください。電子タイプの自動調整型がよいと思います。
東洋リビング株式会社
4. 電源タップ
録音機材は電気がなくては始まりませんね。出張録音などで会場について確認するのは電源をどこからとるかということが最優先事項の一つです。ハンディレコーダーやPCのみで完結できる方は必要性が低いと思いますが、オーディオ・インターフェイスやアウトボート、ミキサーなどを使う方には必須のアイテムです。電源タップを選ぶ場合にポイントとなるのは、まず、しっかりした造りでACコードが抜けにくいもの、次に安定性があって傾いたりしないもの、そして、音質の良いものです。最近のオーディオ業界では、電源の質が与える音の良し悪しがクローズアップされており、びっくりするような値段の電源タップやケーブルが販売されていますが、造りのよいものは確かに上質な音になることは確かです。ケーブルやインレットなどの接触パーツによる音の違いについては、突き詰めれば奥深いものがあって、この回の主旨とは外れるので割愛しますが、電源が取れれば何でもよいというスタンスより、ある程度のクオリティを持ったタップがあると一段ステップアップした録音ができます。しかしながら、この世界に足を踏み入れると、抜け出せなくなるくらい散財するはめになりますので、ほどほどバランスを取って考えた方が良いと思います。ご参考に以下のショップをご紹介しておきます。電源まわりやケーブル調達に重宝します。
オヤイデ電気
5. 変換ネジ
マイクホルダーをスタンドに付けようとしたらネジ径が合わないなど、マイクスタンドのネジで困ったことがある方は結構いるのではないかと想像しますが、どうでしょうか。事を厄介にしているのは、ネジの規格がと統一されておらず、複数存在するからです。ですので、規格が違うものだとネジが合わず取り付けができないという事態になってしまうのです。まずは、自分の手持ちのものがどの規格なのかを確認し、新しい製品を購入する際は、どの規格のネジなのかを確かめて購入するようにしましょう。以下は主なマイク用のネジ規格の種類です。
PF1/2(BTS規格)14山 20.955mm: NHKが制定。国内標準的に流通している規格
NS 5/8"27山 15.875mm : マイクメーカーSHUREが採用。
W 3/8"16山 9.525mm : マイクメーカーAKGが採用
U 5/16"18山 7.938mm : JIS規格
見ただけで嫌になりますねぇ。。とりあえず。1/2、5/8、3/8、5/16と数字だけ意識しておけば困ることはないと思います。自分の持っているものがどのサイズで組み合わせるものがどのサイズなのかを確認しましょう。運悪くサイズが異なっていた場合は、変換ネジがありますので、これを用いて、取り付けます。手持ちの機材であれば一度組み合わせができればそれでOKですね。ただ、どこかの会場設備を使う場合や、誰か他の方のものを借りるといった場合、ネジの規格が合わず困ってしまうこともあるかも知れません。ですので、そういった場合もネジの規格を確認するようにしておけば、対応できます。頻繁に外会場を使うような方は、予備で変換ネジを持っておくと便利だと思います。
変換ネジのご参考
ここから先は必須ではないですが、あるとより良いアイテムのご紹介になります。
6. マイクスタンド・ウエイト
重量があるマイクを長く伸ばしたマイクスタンド・ブームに取り付けた際、スタンドが不安定になったり、マイクがお辞儀してしまうような場合にあると便利なものです。いわゆる重しですね。製品として出ているものは、スタンドの径にフィットしてしっかり取り付けられるように出来ているので便利ですが、砂袋などで代用できます。ホームセンターなどで手軽に調達できます。必須という訳ではないですが、ドラムのキックに立てたマイクスタンドなどが頼りない場合、スタンドの足に乗せると安定感があってよいです。
製品の例はこちら
7. ステレオマイクバー
ステレオバーは1本のマイクスタンドにマイクを2本取り付け可能にするもので、ステレオのマイクセッティングが直ぐできてしまうので便利です。マイクスタンド一本でよいので機材の軽量化も図れますし、マイク間の距離も好みの位置を確定してしまえば、様々な場所で自分のセッティングを再現できます。値段もリーズナブルなもので角度や位置を調整できるものも出ているので、用途と懐具合に応じて選択するとよいと思います。
ステレオマイクバー
8. サスペンションホルダー
マイクを買った時に付属してきたマイクホルダーをグレードアップすると、よりクリアな収音が期待できます。ステージや床からマイクスタンドへと伝わる振動や、マイクスタンドの響きからの影響を軽減できます。ジャストフィットする指定マイク専用のものがよいですが、汎用で使えるものもあります。その場合はマイクの径を確認して購入してください。
サスペンションホルダー
9. アイソレーションパッド、インシュレーター
マイクスタンドの足に取り付けて、ステージや床からの振動を軽減するアイテムです。これ単体では劇的な効果は期待できませんが、スタンドからの振動を少しでも軽減させたいという方には試してみる価値があります。その場合は、先のサスペンションホルダーとの組み合わせがよいと思います。床やステージからの振動で一番厄介なのは低域の響きです。コツコツと歩く音など、マイクが拾う音はかなり大きな低域の振動音となってドンドンという感じで拾ってしまいます。これを軽減する方法はなかなかありません。インシュレーター程度では低域の遮断が難しいからです。ピアノ演奏の録音の際、演奏者によってはペダリングの際に出る音が気になる場合がありますが、これらのアイテムを試す前に、マイクスタンドの位置を動かしてみて、マイクセッティングを工夫するところから始めるのが良いと思います。インシュレーターはオーディオ用のものが多数出ていますのでお好みで選ぶのも楽しいと思います。ソルボセインのシートなども使い勝手がよいと思います。
アイソレーションパッド
ソルボセイン
10. リフレクションフィルター、アンビエント・サウンド・アッテネーター
呼び方は違いますが、部屋の反射音がマイクに入るのを軽減してくれるアクセサリーです。必ずしも音響的に恵まれてない部屋で録音する際、手軽に反射音を軽減してくれるので便利です。ボーカル録りなどで使われることが多いですが、複数の楽器による同時演奏を録音する際、録りたい楽器のマイクへのかぶりを軽減し、その楽器の直接音をクリアに収音する目的で使うこともできます。
リフレクションフィルター
アンビエント・サウンド・アッテネーター
11. ポップガード、ウィンドスクリーン
ポップガードはTVなどで歌手がスタジオで歌っている場面で出てくるのでお馴染みですね。ヴォーカル録りがメインの場合は是非とも揃えておきたいアイテムです。ウインド・スクリーンは、野外で録音する場合などその名の通り風でボソボソとマイクが吹かれてしまうのを軽減するものです。両方とも値段によって効果の差はあまりないので、使い勝手がよいものを選ぶとよいと思います。
ポップガード・ウインドスクリーン
以下は、不要な方も多いと思いますが、ご自身のスタイルに応じて参考にしてください。
12. ダイレクトボックス (DI)
エレキギターやエレキベースを録音する際に必要となる場合があります。録音慣れしているミュージシャンであれば自分で持ち歩いている人もいます。楽器出力とミキサーなどの入力機器を接続する際、インピーダンス(交流抵抗)をマッチッグしてくれる箱です。一般に楽器側はハイインピーダンス(交流抵抗が高い)、入力側はローインピーダンス(交流抵抗が低い)で、そのまま接続するとアンバランスが生じて効率的に信号の受け渡しができなくなってしまいます。具体的には、音ぬけが悪くなったりして楽器本来の音が発揮できなくなります。DIは入力と出力のインピーダンスのアンバランスを解消してこの問題を解決してくれます。最近はHi-Z(ハイインピーダンスの出力をそのまま入力できる)の切り替えスイッチのある機器もあり、その場合はDIは不要となりますのでご自身の機器を確認してみてください。
13. 変換ケーブル
変換ケーブルはライブ録音をする方にとっては必須アイテムの一つです。PAエンジニアさんから信号を分けてもらう場合などに、持っていないと困ることになります。ライブ会場はお客さんに最高の音で楽しんでもらうことを目的としていますので、録音側はあくまでも回線を分けていただくというスタンスでケーブルや変換コネクターなどは準備しておくのが基本です。その場合も会場に早めに入って事前にPAエンジニアの方と打ち合わせをしてスムーズな作業ができるよう心がけましょう。ライブ録音に挑戦しようとする方は、場面によって必要となる変換ケーブルは異なってきますが、コネクターの形状の知識は持っておくべきだと思います。
14. マイクスタンド・キャリングケース
外部会場で録音することが多い方は、マイクスタンドのキャリングケースを用意しておくことをお勧めします。マイクスタンドというのは、思いのほか重く、かさばるものです。マイクの本数が多くない潔い録音であれば裸で持ち歩くことも可能ですが、やはり道具は大切に扱いたいもの。キズがついたり、ジョイント部分が壊れていたりすると録音に対する心構えも透けて見えてしまします。ハードタイプのものから手頃なソフトケースまで選択できます。
15. 懐中電灯
暗がりなどで作業する際、懐中電灯があると便利です。セッティングの確認や録音中の進行表などを確認する際に必要となってきます。LEDで光るクリップで止めるタイプのものや、USBを利用したものなどあり、ちょっとした場面で役に立ちます。
以上、おおよそ必要度が高いと思われる順番にご紹介してきましたが、状況に応じて工夫してみる気持ちを持てば楽しみが増えてよいのではないかと思います。ここに挙げたアイテム以外でもきっと役に立つ優れものがあると思いますし、自らオリジナルの道具を作ってしまうのもありだと思います。今現在、ポピュラーになっているアイテムも、初めは工夫の末、手作りでからスタートしたというものも数多くあります。ご自身のスタイルに応じて楽しんでください。