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  • Takahiro Sakai

マイクはどれを選べばいいのか? -成功するピアノの録音④-


ー種類と特徴を知ればマイク選びが楽になるー

これまで、ピアノを録音する方法やポイントについて説明してきましたが、今回は、知っておくとマイク選びに役に立つ基礎的な知識を綴りたいと思います。一段レベルアップした録音をしようとしたとき、どんなマイクを選べばいいかで迷う方も多いのではないかと思います。カタログなどを見ると、種類や値段も様々で、スペックを見ても何か優れているのか、また、どこを見ればいいのかさえも判断するのが難しいと思います。ここでは、あまり難しいことには触れず、マイクを選ぶ際、知っておくと役に立つ基礎的な知識を整理したいと思います。これを踏まえ、ピアノを録音するのに適したお勧めのマイクについても述べたいと思います。

1.マイクを選ぶときのポイント

マイクの技術的な側面に特別な興味をお持ちの方は別として、単純によいピアノの録音をしたいと思っている方にとって、マイク選びの基準は実はそれほど多くはありません。マイクの種類、指向性、値段の3つです。最後の値段という要素はクオリティやそのマイクの特徴、場合によってはビンテージもので見かけるプレミアムなど、様々な要因が絡んできますし、また、購入者側の懐具合に関係してくるため、明確な判断基準を設けることは難しいですが、選択という側面からは外せない要素です。一方、前者の2つは、形式と機能の種類として明確にできますので、この2つの概略を理解しておくとマイクを選ぶ際、大きな助けになると思います。その他、耐久性や使い勝手などが選択の基準として挙げられますが、音の質という点から見ればこの3つの基準で選ぶのが現実に沿っていると思います。まずは、マイクの形式から見ていきましょう。

1-1.録音用マイクの種類は2種と覚えておけばOK

一般的な録音に用いられるマイクは、ダイナミック・マイクロフォンとコンデンサー・マイクロフォンの2種があるとだけ覚えて置けば困ることはありません。ちなみに、その他の種類としては、圧電素子(圧力がかかると電圧変位をする素子)を用いたものや、レーザ光を用いて、光の揺らぎを受光素子で捉えるマイクなどがありますが、私自身、これで録音したという経験はありません。

1-2.広く一般に使われているダイナミック・マイクロフォン

ダイナミック・マイクロフォンはカラオケやライブステージなど、ボーカル・ハンドマイクでお馴染みの形式で、一般的なマイクです。原理は、音(空気の振動)が磁石の中のコイル動かして電気を起こします。コイルの代わりに金属箔を動かすタイプのもの(リボン型)もありますが、コイルを動かす方式が圧倒的に普及しています。空気の振動が振動板(ダイヤフラムと言います)を震わせ、この振動板に取り付けてあるコイルが、磁石が生み出す磁界の中で電気を発生し音声信号を出力します(図をご参照ください)。

ちなみに、ダイナミック・マイクロフォンは、ダイナミック・スピーカーと構造的には全く同じす。マイクの場合は、空気の振動を電気信号に変換し、スピーカは電気信号を空気の振動に変換する逆の関係になっています。

ダイナミック・マイクロフォンの特徴をまとめると以下になります。

・衝撃に強く頑丈で扱いやすい

・電源が不要

・湿度や温度変化に強い

・大音量でも歪みにくい

・コンデンサー・マイクロフォンに比べ高音域と感度の点で不利

・比較的に安価

上記のような特徴を持ちますので、厳しいコンディションで酷使されるライブのPAなどでよく使われます。コンデンサー・マイクと比較して高音域の収音で不利ですが、ドラムなど大きな音の出る楽器で歪みにくい、また、ヴォーカルの吹きに強いなど、録音の現場でも欠かせないマイクです。コンデンサー・マイクと比べて決して音質的に劣るという訳ではなく、録音する楽器や状況に応じて優れた収音能力を発揮します。

1-3.繊細な音を捉えることが得意なコンデンサー・マイクロフォン

コンデンサー・マイクロフォンは、録音スタジオで歌手が歌っているシーンを見た方もいらっしゃると思いますが、いかにも高級な感じのするルックスをしており、高額なものが多く種類も豊富です。動作原理は、薄い振動膜に電気を貯めておき、この振動膜が空気の振動で動くと電圧が変化し音声信号となって出力するというものです。あらかじめ、振動膜に電気を貯めておく必要があるため、外部から供給する電源が必要となります。このタイプのマイクはコンデンサーの原理を応用したものなので、コンデンサー・マイクロフォンと言います。

コンデンサー・マイクロフォンの特徴は以下になります。

・繊細で複雑な構造のため慎重な取り扱いが必要

・外部から電源供給が必要

・湿度や温度変化に弱く雑音が発生しやすい

・大きな入力で歪みやすい

・繊細でクリアな音質、フラットな周波数特性

・微小な音でもしっかり収音する

・比較的に高価

上記のような特徴を持ちますので、繊細な楽器や高音域の成分が多く含まれる音を綺麗に録音したい場面で使われます。細かいニュアンスを捉えることが出来るので、録音の現場では楽器に応じて様々なコンデンサー・マイクロフォンが多用されます。

2.ピアノの録音にはどちらのタイプのマイクが適しているか

ダイナミック・マイクロフォンとコンデンサー・マイクロフォンの動作原理と特徴を説明してきましたが、ピアノの録音にはどちらが適しているでしょうか。録音する状況にもよりますが、コンデンサー・マイクロフォンが圧倒的に有利だと言っていいでしょう。まず、ピアノは、美しいPPPから豪快なfffまでダイナミックレンジが広く、音域のレンジも広い上、倍音成分(基本の音にのる高周波成分)がタップリのっています。また、前回までのブログでも何度かご説明してきた通り、ハンマーが弦を叩く時、アタック(ノック音)は鋭い音の立ち上がりを持ちます。こうした特徴を持つピアノの音ですので、周波数特性に優れ、立ち上がりの速い音にも俊敏に応答し、繊細で小さな音もしっかり収音するのに優れたコンデンサー・マイクロフォンが有利と言えます。また、ダイナミック・マイクロフォンは、音源にマイクを近づけないと音を上手く拾えないという特徴がありますので、ピアノ全体の響きを録音したいといった場合、距離を取ったマイキングをする場合に不利です。

コンデンサー・マイクロフォンは、どうしても高額になりますので、購入するのに躊躇してしまうかも知れませんが、お金を出して余りある価値がありますので、本格的にピアノを録音していこうという方は、是非、購入しておくことをお勧めします。

3.マイク選び2つ目のポイント 指向性

先に書いたように、マイクを選ぶ時のポイントを3つ挙げましたが、次に考えることはマイクの指向性です。指向性という言葉に馴染みがない方もいらっしゃると思うので、簡単に説明します。

3-1.指向性は方向によってマイク感度が異なる性質のこと

指向性は音だけでなく、電波、光などが空間に出力される場合に、その強度(エネルギーの強さ)が方向によって異なる性質のことを指します。こう書くとちょっと難しい感じになりますが、音とマイクの関係で簡単に説明すると、マイクの真正面にある音源はより良く収音できることは容易に想像ができますよね?では、音源とマイクの距離を一定にして、だんだん音源をずらしていったらどうでしょう?距離が一定であるにも関わらず、マイクの振動面と音源に角度が生じて、音が真正面にあった時に比べ収音しにくくなってくることがイメージできると思います。この性質がマイクにおける指向性のイメージです。音源の方向によってマイクの感度が違ってくるという性質です。実際には、方向が変わっても収音の強度ができるだけ変わらないよう設計されたマイクや、逆に、ちょっとズレただけで大きく収音レベルが異なるように設計されたガンマイク(焦点を狙って収音する)などがあり、目的に応じた様々なマイクが存在します。これを視覚的に図示したものが、以下です。

分類としては、無指向性、双指向性、単一指向性、鋭指向性、超指向性と大きく分けられます。実線の部分が、そのマイクの持つ感度を表現しています。例えば無指向性は360度、感度が一定なので、円の実線が書かれています(実際には全ての周波数で完全な無指向性マイクは存在しません)。単一指向性であれば、前方方向に実線に応じた感度を備えているということになります。

3-2.マイク選びになぜ指向性が関係してくるか

指向性がマイクを選ぶ際にどのように関係してくるかという点ですが、これはマイクセッティングもしくはマイキングテクニックと深く関わってきます。ステレオでの代表的なマイクセッティングは、数種類のバリエーションがありますが、無指向性もしくは単一指向性を選択するもの、単一指向性で行うもの、双指向性と単一指向性を組み合わせるものなどがあります。

各々ステレオイメージが異なっており、録音したいイメージや捉えたい音の範囲によってパターンを選択することが多いです。このブログ連載の2回目「上手にできるピアノの録音②」の2-3.「音と映像で具体的にマイクセッティングを体感しよう」で実際のマイキングテクニックの違いを音で確認できますので、まだご覧になってない方は是非、自分の耳で確認してください。

さて、指向性とマイク選びに戻りますが、ピアノ録音の場合、初めて買うのであれば、単一指向性のマイクのペアをお勧めします。素直に音源に方向に向けて収音できるシンプルさと、音源からの直接音以外の音(部屋の響きなど)の影響に神経質にならない便利さが魅力です。ピアノの響きは場所によって質が違うということをこれまで述べてきましたが、単一指向性のマイクで欲しい響きの部分に狙いを定めるなどの使い方ができます。

次にお勧めするのは無指向性のマイクです。実のところ、録音環境が恵まれているのであれば、まず無指向性のマイクを一番にお勧めしたいのですが、自宅や小さい部屋など録音環境が決して良いとは言えない場合が多いと思われる事、全方位で収音できるので、単一指向性と比較してマイクセッティングに注意が必要になる場合が多いことなどを考慮して、2番目の推薦としています。構造的に言えば無指向性のマイクの方が単一指向性のマイクより特性の点で有利となり、素直で自然な音が録音できます。高度なマイキングを目指す方には是非ともお勧したい選択となります。

結論的に言えば、ピアノ録音の場合、単一指向性と無指向性の2つを選択肢に考えておけば問題ありません。指向性の切り替えスイッチがついているマイクもありますので、こういうマイクを購入するといろんな使い方ができて便利です。有名なものでは、AKG 414シリーズなどがピアノ録音に使われることが多いようです。

4.まとめ

以上、マイクの種類と指向性について説明してきました。カタログでは数多くのマイクがあって選ぶのに迷ってしまうと思いますが、ピアノ録音では、コンデンサー・マイクを揃えたいところです。指向性は、単一指向性もしくは無指向性のものを選択してください。音楽を録音する知識のある方には信じ難い話なのですが、過去に、「凄く性能が良い」と勧められたと言って、ガンマイク(超指向性)でピアノを録音しようとした人がいました。今回ご説明した内容を理解していただければ、こうした冗談のような間違いも無くなると思います。

最後に3つ目の選択基準である価格なのですが、一般論として、やはり値の張るものは優れたものが多いです。それは特性的にというだけでなく、音のカラーというかリアリティの点で優れています。各メーカーも一定のレベル以上の製品では、この点にしのぎを削っていますので、実際に使ってみなければ分からないという側面があります。しかしながら、多くの録音現場で実績があるとか、ミュージシャンやレコーディング・エンジニアが使っているものは安定的によい録音ができますので、ここからスタートするのが安全だと思います。有名スタジオのマイクリストなどを検索して定番マイクの情報を仕入れて置くのもよいと思います。

#録音ノウハウ

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