昨年の12月26日に行われた、竹村浄子さんのリサイタルを収録したライブアルバムが発売になりました。
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竹村浄子 ベートーヴェン三大ピアノソナタ リサイタル ライヴ
ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 作品13『大ソナタ悲愴』
ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2『幻想曲風ソナタ月光』
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 作品57『熱情』
~アンコール~
我、君を愛す Ich liebe dich
収録会場は渋谷区文化総合センター大和田(さくらホール)で、使用ピアノは1887年製ニューヨーク・スタインウェイ(通称ローズウッド・スタインウェイ)です。
さくらホールは渋谷のど真ん中に位置する定員735名のホール。高い天井と奥行きが深い造りで、楽器の響きを活かす艶やかな残響と優れた音響特性を兼ね備えた美しいホールです。
冬の時期のライヴ収録はお客様の服装が厚手になるので、客入り前のリハーサルとお客様が入った本番では、響きの質が大きく変わってしまう場合があり、音決めをする際にお客様が入った状態を想像しながら、ある種、先読みをしながらマイクポジションを調整することに神経を使います。この部分だけは事前に決められない不確定要素なので、本番が始まって第一音をモニターする瞬間は読みが正しかったのか緊張する一瞬です。この日は超満席。ばっちりリハで想像した通りの響きが聞こえてきて嬉しくなりました。
竹村さんは、この日のリサイタルに特別な思いを込められたそうで、ローズウッド・スタインウェイの響きでベートーヴェンを演奏することを希望されました。1887製のスタインウェイは、現代ピアノが完成されたエポックなモデルであると同時に、フレームの鋳造方法や選び抜かれた良質な木材の採用、そして何より天才と言えるスタインウェイ独自のスケーリング設計が結実したピアノの黄金期に生み出されたモデルです。
今日における製造プロセスの効率化と環境問題に端を発する良質な木材とフェルトの入手難の中でつくられている現代ピアノとは次元を異にする、贅と匠の技を尽くしたピアノであると思います。そして、このピアノ黄金期を支えた貴重なピアノを、当時のままの響きとコンディションに保ち、不断の研究と努力を継続されているタカギクラヴィアさんに敬意を表したいと思います。当時も今も変わらずクラシック王道の響きを聴けることはとても幸せなことだと思います。
このローズウッド・スタインウェイはレコーディングやコンサートなど、様々な場面で収録させて頂いておりますが、ピアニストさんごとに多彩な表情を見せてくれるのでビックリします。サーキットを走るレーシングカーの運転が常人では難しいのと同様、このピアノはタッチに鋭敏かつ繊細に反応するので、弾きこなすのはとても難しいのだと思われます。逆に言えば、ピアニストその人の音楽世界を限界なく描き出す可能性を秘めており、このリサイタルで熱演された竹村さんのベートヴェンもその一つであると私には感じられます。是非、多くの方に聴いて頂きたいと思います。
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