5月20~22日までの3日間、かながわアートホールでピアノのレコーディングをしてきました。ピアニストは木村智明さんです。
木村智明 Profile
このプログラムは2017年11月からスタートしており、ピアノもホロヴィッツが恋をしたピアノとして有名な「1887年製・ローズウッド・スタインウェイ」からスタートし、直近2回のセッションでは、1990年製のハンブルグスタインウェイでレコーディングしています。
このハンブルグ・スタインウェイ(D型)は、タカギクラヴィアさんがニューヨークで見つけたハンブルグで、通称「ニューブルグ」と呼ばれて親しまれている楽器です。ユン○○リー、アシュ○○○ジ、ブー○○、ディー○○○フェ、ケ○ゲキ○、ラン○○、クリ○○ラ○トー等々、また、誰もが目にしたことのある、あのCMやCDレコーディングでも活躍している数多くのアーティストが弾いてきた名器です。
今回のセッションでは事前に木村さんから、ピアノのセッティングをいろいろ試してみたいとのリクエストがあり、調律アップ後に、セッティングをいくつか変えてテスト録音を繰り返しました。ピアニスト、調律師、エンジニアの3人がヴァリエーションの違うテスト録音を一緒に比較試聴し、印象や見解をぶつけ合います。ピアノの位置もさることながら、大きく変わってくるのは、通常の大屋根がある状態と取り外したときの響きの違いです。大屋根の主な機能は、大きなコンサートホールで演奏する際、遠くの客席まで音が聞こえるように、楽器から発した音を反射させることですが、レコーディングに関して言えば、聴かせるべき観客が存在しないわけですから、楽器から発する音をダイレクトに収録するのも可能性があるのではないかというのが発想の元です。物理的な側面から見れば、確かにピアノ本体と大屋根の間で生じる音の澱みが感じられず、ダイレクトかつストレートな響きを得られます。
動画引用:ヤマハ株式会社
しかしながら、普段ピアニストさんは、大屋根を付けた状態のピアノの響きで楽曲を完成させているので、オープンワイドでストレートな聞こえは、曲を表現する演奏の仕方や音色を創るタッチの仕方にも影響してきます。また、楽曲によっては、複雑性がある響きやフォーカスの効いた音の飛び方の方がその曲をより表現するということもあり、一概に大屋根外しがよいとは言えません。ピアニストさんのキャラクターにフィットするのかどうかという点も重要です。
木村さんとはレコーディングに入る前に、このあたりのやり取りをしていましたが、イギリスのご自宅には、大屋根を外した状態のピアノもあり、それで練習することもあるとのこと。ですので、大屋根の有無による響きの違いについては十分に理解と体感を持っておられ、テスト録音はとても意味あるものになりました。
いくつかのセッティング・ヴァリエーションを試した結果、大屋根は外して、ピアノの位置はホール中央で少し角度をつけた状態にし、ピアノの背面に、外した大屋根を立てかけピアノ全体から発する音を反射する形にしました。
背面に立てかけた大屋根の角度によって残響のコントロールもできるので、このセッティングに決めた後、大屋根の角度を変えながらテスト録音を繰り返しました。さすがに、大屋根は音の反射を目的に造られているものなので、角度の違いによってホール全体への響きがドラスティックに変化します。初めての試みでしたが、その変化の違いにびっくりしました。かながわアートホールは何回もお世話になっているので、その音響キャラクターは体感として理解していたのですが、この手法は新しいピアノの響きを生む可能性を秘めており、今後のセッションでも更に探求したいと思います。
レコーディング終了後に、いくつか動画撮影の実験もしました。ドローン空撮とラジコンカーを使った撮影で、こちらも楽しいひと時でした。いつか公開できることと思います。
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