音楽之友社より発刊された書籍「ホロヴィッツ・ピアノの秘密~調律師がピアノをプロデュースする」髙木裕 著が好評発売中です。この本は、「音楽の友」誌で、およそ3年以上にわたって連載された内容を基に、新たな執筆を加え編集されたものです。貴重な写真、エピソード、資料もふんだんに公開されており、ピアノに関わる人はもとより、音楽を愛する全てにの人にとっても興味深い本になっていると思います。
この本のコラム「ホロヴィッツ・ピアノの音を可視化する」で、STUDIO 407がお手伝いさせて頂きました。生涯に数えられるほどの数のピアノしか弾かなかったホロヴィッツ。彼が最も愛したピアノと言われるCD75が、音響分析の切り口でどのような姿を見せてくれるのか、私も興味深々でした。
このお仕事をするきっかけですが、ちょうど数年ほど前のレコーディング中、休憩時間に執筆中の髙木さんから、文章ではなかなかこのピアノの音を伝えきれないので、何かビジュアル化して音と一緒に表現できないかとご相談がありました。その後、メールのやり取りなどを通じて可視化の方法を探っていたのですが、主観評価ではなく、客観的なデータとして可視化をするのがよいとの結論になり、音響分析のためのレコーディングをすることになりました。詳しくは、書籍の読者限定でこのサイトにデータを公開していますので、ご覧いただければと思いますが、想像していたより明瞭な特徴が浮き彫りになり、また、分析する前には思いもよらなかった知見を得ることができて、ピアノという楽器の奥深さを再認識しました。エンジニア的な視点もさることながら、ピアニストにとっても演奏表現のヒントとなるデータになっていると思います。
一般読者にも出来るだけい分かりやすいよう、多面的に可視化するよう心掛けましたが、データは大きく分けて以下の2つの切り口で収録しています。実際の音を聴きながら、グラフを眺めることができますので、より感覚的にイメージをつかみやすいと思います。
・ホロヴィッツ・ピアノ CD75とハンブルグスタインウェイの比較
・アクションの違いによるピアノの響きの違い比較
あらためて収録した音源と可視化データを確認すると、ホロヴィッツが何故このCD75というピアノを愛したのか、その理由が分かるような気がします。
しかしながら、本質はやはり生演奏を体感することに尽きるものと思います。著作にはピアノという楽器に真摯に向き合い、理想を求め続ける技術者の物語が綴られており、これを読んで実際の演奏を聴かれるならば、きっと、今までとは違ったピアノの世界が豊かに広がって見えるものと思います。
今回は、CD75というピアノを基軸とした分析でしたが、ホロヴィッツゆかりのピアノには「ローズウッド・スタインウェイ」もあり、また、近年、見直しがされている、作曲家が生きていた時代につくられたピリオド楽器によるオリジナルな響きがどのような特徴を備えているのかを音響分析することも意味があるように思います。時代とともに、作曲家の要求とその時代の技術進展、そして楽器の進化がどのような経過をたどって響きが生み出されてきたのかを、音響分析の切り口から眺めてみると新たな発見があるかも知れません。
音楽之友社での告知ビデオをご覧ください
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